小説版 MSTSR

MSタクティクスSRにて連載中の短編小説。MSTコロニー中心とした様々な人々の物語。登場人物はすべてMSTSRにて登録されプレイする人が考えた己の分身キャラ。よって、原作のキャラと酷似していますが、ほぼ設定は異なっているという事をご了承ください。

最終章 第四十一話


「お初にお目にかかる。俺はシフティ、霧島雪佳・・・貴様を殺しに来た。」

ニヤリと口元をあげてこちらに不気味な笑みを浮かべる。
シフティの周囲に黒い固まりが集まりだし、それは一人の人型の形に変化していった。
取り囲まれた二人。雪佳は白霧、離珠は予備のナイフを取り出し再び武器構えた。

「あなた達ね、私の子供を追って未来から来た悪いヤツって。」
「・・・もうすでに接触し、未来の情報を知ったか。」

薄い笑みを浮かべていたシフティから笑みが消えた。
あまりあちらにとって良い情報ではないようだ。
雪佳は辺りに目を配りながら、もう少し会話を引き延ばそうと試みる。

「ほかのお仲間がいるらしいけど、そちらさんはどうしたのかしら。まさかジノお兄様を狙ってる?止めといたほうがいいわよ、あなた達程度だと・・・逆に死ぬよ?」
「フッ、会話を長引かせて時間と情報を得ようとする貴様の策には乗らんぞ。・・・行け。」

意図が読まれた雪佳たちに向かって、周りにいた黒い人型が飛び上がった。
黒い人型の正体はシフティが従える不死者達だ。彼らは頭上から雪佳たちに飛びかかろうと迫ってくる。

「女性との会話を勝手に打ち切るなんて、嫌われるわよ!」

最初に向かってきた不死者を白霧で両断しながら雪佳は声を荒げた。
その裏では離珠が見事な体術で敵の攻撃をかわし、ナイフで一撃を加える。
さらにふらついた不死者に向けて強力な回し蹴りが決まると、不死者は力なく地面に転がされる。
思ったより手ごたえのない展開に二人は背中合わせにして周囲の敵と向かい合った。
いきなり2体も倒され、不死者も動揺しているようだ。じりじりと間合いを取りながらこちら側の動きを警戒している。

「話で聞いたよりは・・・あまり面白みはないね。」
「見くびってもらっては困るな、霧島雪佳。・・・シッ!」

ぶらりと垂らしていた左腕を、振り上げると同時に何か細いものが雪佳と離珠に向かって飛んできた。
雪佳が首を傾けるのとほぼ同時に耳元をそれが通り過ぎ、後ろに迂闊にも立っていた敵の一人に命中した。
シフティの構えた腕は縦に展開しており、その中から現れた細い何かを発射したと思われる銃口が向けられていた。
離珠が驚いて振り向けば、痙攣しながら悶え苦しむ敵の姿があった。細い何かは串のように細長い金属製の針。
敵は関節がおかしくなるんじゃないかと思えるくらい、異様なねじり方をしながら苦しみ続けている・・・
こんなものがもし刺さったら・・・そう思っただけで鳥肌が立つ。
そして、それ以上に仲間をも平気で傷つけても何とも思っていないシフティの態度に雪佳は強い苛つきを感じた。

「なんてこと、味方に・・・!」
「人工的に作り上げた神経性の猛毒だ。当たればあの通りだ。・・・次は外さん。」

じりじりとにじり寄るシフティ。
雪佳は顔を正面に向けたまま、表情も変えず密かに離珠だけ聞こえるくらいの声で話しかけた。

「・・・離珠ちゃん、あいつは私がやるわ。周りの奴らをお願い。」

離珠は何も言わないまま了承した。雪佳もまた無言をOKサインと捉えて白霧を構える。
合図はない。しかし、二人は同時に駆け出した。
シフティもそれに応じてすぐに猛毒の針を発射する。
雪佳は手の動きから針の軌道を読み取り、盾でそれを防ぎきる。

「ハイッ!」

横一文字に大きく振り上げる切っ先をかわし、シフティは木の太い枝へ跳躍する。
そのまま間髪いれずに枝から枝へと飛び移りながら、猛毒の針を発射する。
自身の体重を物ともしない計算しつくされた加重移動が枝を折ることもなく、彼の機敏な動きを実現させている。
地上に着陸した後も雪佳を近づけさせまいと、いつのまにか装備していた右腕の銃からビームが発射された。
外れたビームは大木をまるでプリンをくり抜くように、いとも簡単に貫通させていった。
雪佳も応戦し、切っ先からの衝撃波で大木を両断しながら、シフティを追って森の奥へ奥へと突進していった。

一方の離珠はその巻き添えを食わないようにしながら、見事な体術で敵を翻弄していた。
突撃してきた相手を華麗にかわして背後からのナイフの一撃で仕留めたかと思えば、飛びかかってきた敵を蹴り上げ、シフティが放った外れ弾のビームに命中させる。
雪佳ほど派手な戦いではなかったが、的確で効率性の高い体術が敵を確実に倒していった。
半数ほど片づけた時、離珠はシフティと雪佳がだいぶ自分から離れて戦い続けていることに気がついた。
攻撃を当てず、守りに徹しながら移動をし続けるあの敵の動き・・・
あれは陽動の動きそのものだ。この展開は雪佳と自分を分断させようとする動きだ。

「雪佳様、それ以上はいけません!くっ・・・!」

雪佳を追いかけようとすると、辺りにいた敵がそれを全力で止める動きに入ってくる。
これは確実に自分の考えが当たっていることを物語っている。このままではまずい。
しかし、こうも足止めをされてはあの二人を追いかけることができない。
急いでこの雑魚らを片づけて雪佳のあとを追いかけなければ。

「邪魔ですッ!」

体を回転させ、遠心力と腕力を重ね合わせた一撃をもらい、敵は空中で横回転しながら吹き飛ばされた。










シフティを追いかけ続けてきた雪佳は、森の奥深くの場所でシフティを見失ってしまった。
相手の体の構造からしてあれは完全な機械の体。闘気や生命力を感じない機械では、その気配は掴みづらい。
ゆっくりと歩き、正面、後方、頭上・・・ありとあらゆる方向の気配を探る。やけに静かだ・・・生き物がいる気配すらない。

ガサッ・・・

「!」

草が揺れ、剣を構える。出てきたのは・・・1羽の兎だった。
何だ兎かと思った時、その兎から感じる異様な感覚に彼女の動きが止まった。
この兎・・・生命力が、感じられない・・・
トラップだ。そう気がついた時、兎の口が裂けるほど大きく開き、中からあの猛毒の金属針が・・・!

「・・・うッ・・・!」

やられた。油断していた。幸い突き刺さることはなかったものの、左腕に細い傷跡をつけられた。
金属針がかすめていったのだろう。しかし、普通のかすり傷なら苦しむことはない。

問題はそのかすめたものに"仕込まれていたもの"だ。

傷口にはまるで火で焙られた無数の針でも押し付けられたみたいに熱く、鋭い痛みが襲ってくる。
堪え切れず白霧を落としてしまい、霧のように剣と盾が実体をなくして消えた。
倒れるように腕を押えてうずくまる。まずい・・・ここまで強力なものだとは思ってもみなかった。

「ククク・・・どうだい、俺の作った毒針は。・・・んん?まだ意識がハッキリしてるみたいだな。ならば、もう一本味わっておけ。」
「うあッ!?」

嬉しそうな声が頭上から聞こえてきた直後、再び左腕に鋭い痛みが走った。
シフティがトラップで使ったものと同じ毒針を雪佳の腕に突き立てたのだ。
見る見るうちに体中の感覚が利かなくなってくる。辛うじて見上げたシフティの姿がぼやけていった。
頭の中がまるで泥酔したようにグルグルとおかしくなっている。
強烈な吐き気、全身が焼かれるようなジリジリとした痛みが立ち上がる力を奪い、神経を侵され視界は空間が歪んだような景色しか映し出さない。
三半規管がやられたのかもしれない。聴力も著しく低下している。鼓膜に直接音を叩き込まれてるようなひどい耳鳴りだ。
今にも気が狂ってしまいそうな状況だった。こんな狂気に満ちた苦痛は生まれて初めてだ。

「俺のトラップもよくできたものだろう?こいつに使われたのはな、俺たちの時代にいたお前の血液から作った特殊な麻酔薬を使用している。他の奴にはまるで効果はないが、本人に対しては絶大な効果を発揮するんだ。効果は・・・お前が一番今わかるだろう?フフフ・・・」
「ふっ・・はッ・・・うっ・・・!」

何か言い返してやろうと思うも、口が動かない。
息だけが無情に漏れていくだけで、声どころか音すら出すことができない。
悔しさだけが雪佳の中に広がっていく。

「悔しかろう、悔しかろう・・・。さぁて、どうやって殺してやろうか。このまま苦しみ続けて殺してやろうか、それとも苦しまずに死なせてほしいか?」

死の宣告を面白おかしく雪佳に突きつけていく。
奴の目は子供が新しいおもちゃを見つけた時のような輝きにすら見える。
こんな状況であのような目をしているんだ・・・今まで奴に犠牲になった命は計り知れないだろう。

「もっと苦しんでいる顔を俺に見せてみろ。」

うつぶせに倒れる雪佳の青く長い髪を力ずくに鷲掴みして強引に表情を覗き込む。
視界にシフティのにやけた顔だけが映り込んだ。

「触るなとでも言いたそうな目だな。・・・生意気ッ!」
「ぐッ・・・・!」

カッと表情が怒りのものに激変し、思い切り雪佳の顔が地面に叩きつけられる。何度も何度も。
彼女の頬は赤く擦り剥け、痛々しく血が滲み始めてくる。

「ハハッ、もう少し遊びたかったが・・・時間がない上に失敗はしたくないからな。そろそろ終わりにしようか。」

無造作に掴まれていた髪が解かれ、力なく雪佳の顔が地面についた。
雪佳の息遣いは早くなっているが力は弱い。意識も朦朧とし始めた。
もうここまでなのか・・・生きたい。何とかして逃げなければ。
シフティの腕が再び開放し、中からあの猛毒針を発射する銃口がその姿を現した。

「・・・・・・・・」

体を必死に動かそうとするが、指先すら力が入らない。
うつぶせになっている体を、足で押し上げられて仰向けに変えられる。
かすんだ視界にシフティの姿が映り、銃口が自分に向けられるのがぼんやりだが視認できた。

「(動け、動け、動け!右手だけでもいい、奴を怯ませるだけでもいいから・・・私に、力を!)」
「未来は死んだ・・・我々の勝ちだ。・・・・ん?!」

完全に勝ったと思っていたシフティからおかしな声が漏れた。
ぼやけた人影がきょろきょろと辺りを見回している・・・?

「誰だ!誰がやった!」

声を荒げ、頭上の木々に向けて叫ぶシフティ。
その腕から飛び出ている銃口には・・・細いナイフが突き刺さり、針の先が完全に分断されていた。
腕にも深く突き刺さり、結果的に発射ができずに終わってしまったのだ。

「あなたの思い通りにはさせません。」
「貴様は・・・!」

森の奥から静かに聞こえる声。声の主は、離珠だ。
シフティが連れてきた不死者達をすべて倒してきた離珠はようやく雪佳の後を追ってきたのだ。
エプロンドレスは戦闘のせいで泥で汚れ、いろいろなところが破れたり裂けてしまったりしている。
頬や腕にも細かい傷が出来ていたが、離珠は鋭い目をシフティに突きつけながら立ちふさがった。

「あなたの部下は全て倒させて頂きました。もうすぐ仲間もこちらに駆けつけてきます。おとなしく投降すればあなたの身の安全は保証いたします。」
「俺におとなしく投降しろだと?人間風情が・・・!」

シフティの表情が豹変する。怒りと憎しみに満ちた恐ろしくも醜い顔。
機械でありながら人間以上に人間らしい感情豊かなのは、人間を極端に嫌う彼にとってなんとも皮肉なことだ。

「その人間風情の力、甘く見ないで・・・!」
「!」

シフティの背後から突如として声がした。
振り向こうと頭を動かした直後、シフティはものすごい勢いで離珠の横を通過して吹き飛ばされていった。
土煙りの先、そこに立っていたのはオトメシステムを起動しているハルカ・アーミテージの姿だった。
全身を包み込むようフィットしている翡翠と白の戦闘服はハルカのボディラインをより強調している。
戦闘服から生み出されるそのパワーは、ジノや力を開放した雪佳に匹敵する強力なものだ。
その彼女の一撃を受ければ、並大抵の者は立ち上がることすらできなくなる。
シフティも奇襲からの一撃に、立ち上がることもままならず木を支えに膝をついていた。

「私がいるときに攻めてきたのが悪かったわね。」

モーニングスターを召喚し、それを手にシフティを追い詰めていく。
離珠は倒れている雪佳を抱き上げ、雪佳の名を呼び続けるが反応がない。
その様子を後ろから声だけを聞いているハルカ。その手に握るモーニングスターが彼女の握力でギリギリと音を立てる。

「こっちも時間がないのよ。さっさと逝ってもらう。」
「ククク・・・それはどうかな。」

ふいに漏れたシフティの言葉に、追い詰めるハルカの動きが止まった。
重傷を負っているはずなのに、その口元はニヤついている。

「何を隠しているの!」
「・・・・時間だ。空を見ろ!」

シフティが大きく腕を振り上げて空を指差す。
離珠もハルカもその言葉通りに頭上へと顔をあげると・・・

「なッ・・・!」

なんと目の前に小型の戦艦が姿を現したのだ。
見た目は汎用型の戦艦に見えるのだが・・・地球や月で作られたものではないことがわかる。あれは明らかに未知の技術で作られたものだ。
なぜならその小型船はまるで無数の蛇がまきついているのではないかと思えるほど、太いコードやパイプが所せましと壁を覆っていたからだ。
それに目の前に現れた方法だ。あんなワープ航行は今までに見たことがない。未来の技術だと疑わずにはいられなかった。

「お前たちがここにきている間、手薄になった屋敷を攻めさせている所だ。霧島雪佳を抹殺できなかったのは残念だが、代わりにグレミー・トトを始末できる。我々に負けはないのだよ。」
「うるさい!ここでアンタを倒して・・・」
「ハルカ様!離れてください!」

離珠の警告の後、ハルカの周囲が次々と爆発していく。
頭上から砲が開始されたのだ。命中こそはしなかったが、ハルカとシフティの周囲は砲撃で焼け野原のようになってしまった。
乙女のローブのおかげでハルカに大した怪我はない。土煙りの中、シフティを捜すが奴の姿が見当たらない。

「逃がしたか・・・!」
「ハルカ様、戻りましょう!このままではグレミー様が!」
「・・・あいつ、いつか私の手でぶっ潰してやるんだから!」

ハルカは小型戦艦にむけてモーニングスターを投げ飛ばし、倒れている雪佳を脇に担ぎあげた。
だらりと手と足が下がり、まるで死んでいるように動きもしない。

「だらしないわね、重いじゃないの!」

文句は言いつつも軽々と雪佳を担ぎあげているハルカは、離珠と共に屋敷へ向かって駆け出していた。
その間、敵からの砲撃はピタリと止んで何も起きなかった。
撤退の間際に振り向いて戦艦のいた森上空を見上げると、小型戦艦はハルカのモーニングスターの直撃で煙を上げていた。
2人は屋敷へ戻るために飛ぶように木々を走り抜けていった。


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