小説版 MSTSR

MSタクティクスSRにて連載中の短編小説。MSTコロニー中心とした様々な人々の物語。登場人物はすべてMSTSRにて登録されプレイする人が考えた己の分身キャラ。よって、原作のキャラと酷似していますが、ほぼ設定は異なっているという事をご了承ください。

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最終章 第五十五話



振動が徐々に大きくなってきた。音も伴って響いてくる。臓器を揺るがすような低周波が体を震撼させる。
時折、崩れるんじゃないかと思えるくらいの爆発がある。正直怖い。別に閉所恐怖症とかではないのだが。
ついに前線の尻尾が見えて光が差した。
出口にたどり着いたのだ。戦闘音がかなり大きい。機体をなるべく低く歩行させ、流れ弾に当たらないように進んでいく。
時折、跳弾した弾が横壁や天井に当たり、甲高い金属音となって恵達を耳から震え上がらせる。
進んだ先に先程と同じくバーザム数機とホバートラックが停車していた。背部の本来は荷台であるところにレドームが装備されている。EWACか何かだろうか。
この装備から察するに、これは部隊用指揮官車両だ。通信を申し出ると、ネオジオン将校の軍服姿をした中年の男が出てきた。
この小隊を指揮しているのが彼なのだろう。

「こちらマスターガンダムパイロットのジノ=マクレガー。状況は?」
「あなたが大佐の言っていたグレミー様からの援軍ですか。見ての通り、袋小路のドームに追い詰めてはいるのですが、なにぶん奥のトンネルから湧き出る数が多くて中々押しきれません。」
「デビルガンダムの姿はありますか?」
「いえ?すべてデスアーミーです。自軍の屍を壁にして籠城していますよ。」

おかしい。そんなわけがない。かなりの深手を負っているはずなのに寝床に帰ってこないとは。
地下でマイトガインがトドメを刺したのか?それなら何かしらの情報がくると思うのだが。
ジノの中の不安はすぐにエヴァンジェリンにも伝わってきた。彼女も同じ考えに至っているようだ。

「ジノ、デスアーミーの発生源とエネルギーの元は確か・・・」
「DGだ。奴らが群を成しているというのなら、奴はまだどこかに潜んでいる。」
「どこかってどこ!?俺達の足元にいるかもしれないの!?」
「落ち着け。すぐに暴れられるほどじゃないとは思うが、早く探さないと取り返しがつかん。」
「お兄ちゃん、とにかくデスアーミーが出てくる奥の道を調べるしかないんじゃかな?って私思うんだけど・・・」
「その奥にまさか?」
「茶々丸、反応はないか?」
「不明です。確かに高エネルギー反応はありますが、DGのものではありません。」
「まずは目の前の敵を叩こう。DG探しはその後だ。」

ジノ達も戦線に加わり、敵の掃討に掛かり始めた。
ザク系、ジム系、ギラ・ドーガ系、アストレイシリーズ、どのMSもそうだが、地下深いドームの中で重火器や高威力の兵器は使えない。
幸い敵もビーム系ではなく実弾を使用している。マシンガンの威力程度なら周りの外壁は耐えられるようだが、両者の争いが長引けばいつ崩落してもおかしくない。
味方軍は量産型のMSが中心で、敵の攻撃にさらされながら突破できる状況ではない。お互いに爆薬物を使用できないためにこう着状態だった。
マスターガンダムらを中心に突破する以外、状況を変える術はなさそうだ。

「小隊長、我々が中央突破を試みます。援護をお願いします!」
「・・・危険だがやむを得ないか。わかりました、全力で援護を!」

ジノは瓦礫や積み上げられたデスアーミーの残骸を壁にして前へ前へと進軍する。
そして、前線で進むのを止めてタイミングを見計らった。すぐ背後にはちゃんとエヴァンジェリン達もついてきている。

「恵、織佳、援護を頼むぞ。」
「あぁ、任せて!」

屋内では威力が強すぎるカロリックミサイルは使えないため、ちゃっかり二人は落ちていた自軍のライフルを拝借していた。
現地調達は戦場の基本だ、と恵は自信満々に言っていた。
小隊長から通信が来た。敵の隙をついて合図と共に一斉援護射撃を行うと。

「全軍、一斉掃射!」

恵は迷うことなく引き金を引いた。機体がライフルの反動で小刻みに揺れる。
突風のように押し寄せる鉛の風がうかつにも突っ立っているデスアーミーの躯体をズタボロに破壊していく。

「でぇぇぇい!!」

飛び上がったマスターガンダムの一撃が最後のデスアーミーをなぎ払った。
着地と同時に最奥へ転がり込んでいく。

「エヴァ、こいつを見てくれ!」

マスターガンダムの隣にアンジュルグが着陸する。
2機の目の前には巨大な柱状のCPUが壁に組み込まれていた。
大きなランプが点滅して暗闇に立つジノ達を照らしている。

「これは・・・」
「マスター、これは四次元システムと同じエネルギーを出しています。無尽蔵にデスアーミーが現れるのはこれの仕業でしょう。」
「未来のとはいえ、元は身内だ。敵に自分達の強みを使われるのがこれほど厄介だとは。」
「茶々丸、こいつを黙らせることはできるか?」
「やってみます、ジノ様。」

茶々丸はアンジュルグのコンピュータから敵の四次元システムに対して侵入を始める。
その間、ジノ達は新たな四次元の扉から敵が出てくるのを警戒する。
案の定、敵は四次元システムの破壊を恐れてか増援を送り込んできた。
自軍のジムのシールド持って、織佳はアンジュルグの前に躍り出る。茶々丸たちは動けない。ここで守らなければ大事になる。

「まだか!」
「もう少しです。」
「こいつ、撃っても撃っても出てくるぜ!」
「しまった!これは・・・」
「どうした、茶々丸?」

エヴァンジェリンの背後で茶々丸の動きが止まった。
彼女の顔がモニターに照らされて赤く染まる。

「大変申し上げにくいことなのですが・・・」
「なんだ、早くしろ!」
「申し訳ありません。どうやらこれはブービートラップのようです。」
「ぶーびー?」

アンジュルグを守っていた織佳は初めて聞く単語に?マークを浮かべた。
恵もマシンガンの銃身を構えながらその意味を聞こうと聞き耳を立てていた。
二人に対して茶々丸は丁寧に説明を加える。

「侵略してくる敵に対し仕掛ける罠の一つです。味方兵の残留物、消耗品などに爆薬やニードルガンなどを仕掛け、それらを手に取った敵を殺傷します。ちなみにブービーとは・・・」
「booby・・・つまりマヌケってことだ、クソッ!茶々丸、何の仕掛けがあった!?」
「ちょうどジノ様がいるところより200m地下にあるものに繋がった模様です。コード名は「サイクロプス」。旧大型兵器のためどういったものかは不明ですが今すぐに脱出することを推奨します。」
「奴ら、最初からこのつもりだったのかよ・・・!」

ジノの顔が強張った。追い詰められた時に敵は何をするかわからない。それは自分達人類も同じだったからだ。
恵も思った。自分達も敵に追い詰められた末にタイムスリップを強行した。
敵は自分達をつぶすためにワザワザ最深部まで誘い込んだ上でトラップを発動させたのだ。
この基地には大量の地球連邦軍とジオンの連合が入り込んでいる。今すぐに脱出命令を出したところで全員が助かるかどうか・・・

「グズグズするな、脱出するぞ!茶々丸、聖達に連絡。基地内部にいる全軍に避難命令を出させろ!ジノ、恵、織佳、アンジュルグを軸に脱出するぞ!」
「ま、間に合うのかな!」
「知らん、だが最後まで諦めるなッ!!茶々丸、トラップの発動までの時間を計算しろ、旧式で大型なら時間はかかるはずだ。」
「すでに計算済みです。予測発動時間は・・・・・・・10分後です。」
「10分か、間に合うか?!」
「考える前に動け!いくぞっ!」

アンジュルグが飛び出し、それにジノ達も続いた。
途中で出会った自軍にはすぐに避難するように伝えて回った。もちろん、ここまで来る途中で出会った兵士たちにも。
ジノ達は転がるように上へ上へと駆け上がる。後ろから部隊も付いてきている。
この調子なら、先にある縦穴に出れるはずだ。助かる!
と思ったのもつかの間、ジノ達は足を止めざるを得なかった。

「これは・・・」

ジノ達は壁に隠れ、言葉を失った。
なぜなら、ジノ達が入ってきた通路には山積みになった味方の機体で塞がれてしまっていたからだ。
周りにはデスアーミーが何体もうろついている。我先に出口へ向かった者たちに奇襲をかけたに違いない。

「クソッ、このクソ忙しい時に!」
「あいつらを倒してからあの機体の山をどかしていたら、間に合わないよ!」
「先生、どうしよう・・・」
「マスター、残り時間はあと3分です。」
「同時にやるか・・・できるのか、我々4人で・・・」

「待ってくれ、アンジュルグのパイロットよ。」

アンジュルグの背後、味方のMS部隊の中から声が上がった。
渋みのあるその声は、さっき一緒になった小隊長だ。
残り数十名の部下を引き連れてジノ達の後を懸命に食らいついてきたのだ。

「もう時間はない。これは私たちがやる。」
「ッ!馬鹿を言うな!満身創痍の貴様たちに何ができるというのだ!」
「我々に質の高い統率力があればこのような事態は起きなかった。責任は我々にもある。大丈夫だ、あんなゾンビ野郎にやられるほど俺たちは伊達じゃない。」
「しかしだな・・・」

言葉の詰まるエヴァンジェリンに、残った兵士たちが奮起していく。
一人、また一人と武器を持ち立ちあがっていく。

「隊長の言うとおりだ!俺たちのことは構うな!」
「あんたらはグレミー様の大事な切り札なんだろ!?こんなところで死ぬなんて馬鹿げてる!」
「もう2分切った!時間がないんだ、やらせてくれ!」
「そうだ、時間がないのだ!・・・いくぞ、皆!奴らに人間の底力を見せつけてやれー!」
「ま、待て!」

エヴァンジェリン達の制止も聞かず、味方が飛び出していく。
奇襲に戸惑うデスアーミーは攻撃が遅れた。銃撃戦が始まり、次々と敵味方が次々に撃墜されていく。
隊長も攻撃に加わってライフルを撃ち続けている。

「行け!早く!」
「魔装機神のパイロット!」
「っ!」
「俺の家族と、仲間の仇をとってくれ!あのデカブツを必ずあの世に送ってくれ!」

恵達のコクピットについさっき出会ったばかりの兵士の声が響いた。
がれきを撤去するMS達の脇をすり抜け、アンジュルグ達は縦通路を上空へ飛び上がった。
それに続き、味方部隊も少しずつあとに続いていく。

「・・・15秒前。」

茶々丸がカウントダウンを始める。
全員がペダルをべた踏みし、最大出力で天に向かって上り詰める。
誰だって死ぬのは怖い。だから早く出たい!助かりたい!
カウントダウンが進むごとに焦りだけがわいてくる。飛べ!もっと早く、もっと早く!

「5秒前、4・・・3・・・」
「見えてきた!もうすぐだ!」

茶々丸がカウントダウンを言い終わってすぐにジノ達は基地を脱出した。
そのまま大きく弧を描くようにして基地から離れていく。
地面を見下ろせば、地震のようなものが起きているように見える。
直後、脱出した通路から大きな閃光が吐き出されていた。そして地表面からドーム状に膨れ上がったエネルギーが周囲の物を巻き込み始めていく。

「あれが・・・古の兵器・・・」

織佳はそのおぞましい光景に自分の体をかき抱いた。
基地の地下で発動したサイクロプス。強力なγ(ガンマ)線の電磁兵器であるそれは、巨大な電子レンジと同じであり、基地内部を蒸しあげ、人間も機械も自然も大地もすべてを破壊しつくした。
満身創痍の部隊を抱えたまま、安全区域まで離脱したジノ達はその地獄の光景に息をのんだ。
結局基地から脱出できたのは、マスターガンダム達4機と連合軍・・・・合わせてたった50数機だった。
数百という大部隊を使っての大侵攻作戦は、GDGの大破と敵基地の破壊いう戦果と比べるには程遠い多くの犠牲を出した。

「畜生、結局なんだったんだよ・・・この戦いは・・・何だったんだよおおおおっ!!」

恵の叫び声だけが戦場に空しく木霊し続けた。












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最終章 第五十四話




「てめぇ、何で邪魔をした!?」

ジノが激昂する先には動輪剣を構えているマイトガインの姿がある。
ジノの放った石破天驚拳をその刃で二つに叩き割った彼。背後には半壊しているグランドデビルガンダムがいる。
自己修復を始めていて、すぐにコアを潰して叩き潰さねば再び完全復活を遂げてしまう。
だが、マイトガインは立ちはだかったまま黙ってその剣を納めてしまった。

「おい、そこの謎ロボ!このエヴァンジェリンにもわかるように説明しろ!お前の、したい、ことは、な・ん・だッ!!?」

空調も効かないくらいカンカンのエヴァンジェリンと反対に、マイトガインは静かに口を開いた。

「お前達のやり方は正しくな。」
「何?」
「コアを破壊してはならない。あれは破壊しては絶対にならないのだ。」
「何故だ、理由を聞かせろ。」
「それはまだできない。お前達はまずこの戦いを終わらせるという任務が残っているはずだ。話はそれからでも遅くはない。」
「バーロー!背中に敵を残して基地に踏み込めるわけないだろ!」
「安心してくれ、俺に任せてくれれば・・・ムッ?!」

突然ジノ達の足場が揺れた。他の味方に影響が出ていないことから、これは地震ではない。
そう、原因はデビルガンダムだ。
体はボロボロでありながらも、かろうじて上体を起こし始めている。

「・・・想像以上の回復力だ。基地に戻れるだけのエネルギーをもう集めてしまうとは。」
「どけっ!今ならまだ間に合う!」
「ダメだ。お前にコアを傷つけないという保証はない。」
「ジノ様、マスター、どうやらここを離れないと危険です。2時方向、敵基地より高エネルギー反応。ロックされます。」

ジノ達とマイトガインが問答している中、茶々丸の冷静な言葉がすり抜けた。
見上げた先に光が見えた。レーダーに表示されたロックオンの文字・・・敵の射程に捉えられた。
敵の基地が真っ二つに分かれた中から出てきたのは巨大な砲台だった。
地球製のものを乗っ取ったものではない。あれは明らかに敵が作り上げたものだ。

「なんだ!?」
「あれは・・・ローエングリン砲!」

ローエングリン。それは陽電子破滅砲とも呼ばれる長火力の陽電子砲である。
その威力は絶大で直撃すれば、戦艦はおろか基地をも葬り去ることもできる。

「で?その陽電子砲がこっちを向いてるってことはー・・・」
「はい、もう間もなくこちらに発砲するものかと。」
「おじさん!のんきなこと言ってる場合じゃないって!!」
「おじさんじゃない、バカッ!」
「バカはお前らだ!緊急上昇!!」

エヴァンジェリンに罵倒されながら、全機が一斉に飛び上がった。
織佳が地上を見下ろすとただ1機、GDGを地上に残したままだ。だが肉眼で確認出来たのはその一瞬だった。
巨大な熱戦が今さっき自分達が言い争っていた大地を消し飛ばした。岩板は融解し、ドロドロだ。
もし気づくのが遅かったらと思うと背筋が凍りついた。きっとあの光に包まれたGDGはもう・・・

「おい、織佳見ろ!あいつ逃げてるぞ!」
「えぇっ?!」

恵の示した方、GDGがいた地面には巨大な穴がぽっかりと口を開けていた。
あの一瞬の隙をついて奴は地面を掘り下げて地下へと逃げ込んだのだ。

「くっ、不覚・・・!だがッ!」

マイトガインが悔しそうに言葉を漏らした。
彼は空中で反転すると頭からGDGのあけた大穴に飛び込んで行った。
構えるジノ達だが、何も起こらない。しばらく経っても何か起こる気配は起きなかった。
なんともやりきれない空気が漂う。

「・・・どうする?」
「マスター、現段階を敵主力兵器撤退として完了し、次のターゲットは新型のローエングリン砲に定めるという提案をします。」
「致し方あるまい・・・ジノ、茶々丸、あのデカブツを潰して乗り込むぞ!」
「先生!GDGはどうするんですか!」
「あのロボットに任せればいい。邪魔はしたが敵ではないからな。また見つけた時に問いつめればいい。」

ジノは風雲再起を呼び戻し、再び空を駆ける。
先陣を切っていくと、敵の砲台が良く見えるようになってきた。
近づいていくとその巨大さにヒューッと口笛を鳴らした。砲口の大きさでも30m近くあるだろうか。
ここから出る超エネルギーが超長距離への砲撃を可能にさせているのだろう。
だが、いくら一撃が強力でも冷却に時間がかかって連射が出来ないのはどの巨大砲台も同じという事か。
砲台は背部からものすごい湯気を吹きだしている。しばらくは先ほどの一撃は撃てないだろう。
砲台の周囲から敵機の反応。
幸い敵の数は多いものの、相手はデスアーミー達だ。烏合の衆を片づけるのは造作もない。

「そーりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃッ!!」

マスターガンダムからまるでガトリングのように猛烈な勢いで気弾を撃ち始めた。
護衛の敵機も迎撃するものの、その圧倒的な力の差にただただ総崩れとなる他なかった。
恵達が追いついた頃には、砲台を残してすっかり焼け野原となっていた。

「御苦労。あとは任せておけ。」
「ファントムフェニックス、発射。」

進軍しつつ十分にチャージをしていたアンジュルグがファントムフェニックスを発射した。
冷却が始まったばかりで熱している砲台に、ファントムフェニックスの一撃が直撃。耐えられるわけがなかった。
あまりにも呆気なく砲台は陥落した。これほどのものがあればもっと使う良いタイミングがあったのではと思うが、GDG撤退のためだけに使用したのか。
それほど敵が焦っているのならばチャンスと言えるだろう。
茶々丸に呼ばれてエヴァンジェリンは砲台の脇を見た。
破壊された砲台の脇から地下施設に繋がる空間が見える。そこから侵入できそうだ。

「よし、あそこから突入するぞ。」

敵からの迎撃がいつ来るかはわからないことをよく注意し合い、基地内へ飛び込んだ。
途中、壁が大きく揺れた。味方の軍はかなり奥まで進軍出来ているようだ。
飛び降りた空間は巨大な筒状の通路のようでまっすぐ真下へと繋がっている。かなり深度はありそうで、いくら落ちても地面が見えない。

「あの砲台を地下から持ち上げる通路だったのか。」

ようやく空間が広がった。と思った瞬間、デスアーミーの強襲が起こった。
けん制をしながらそれぞれ近くの瓦礫に身を隠した。このドームのような空間、すでに戦場になったのだろう。
至る所が崩れていて破壊されたMS達の残骸が所せましに散らばっている。

「さすがは・・・そこいら中に敵だらけだな。」
「だな。数はデスアーミーが3機か。茶々丸、やれるか?」
「特化機でなければ問題ありません。」

エヴァンジェリンがGOサインを出すと、茶々丸はコクピットを開いて飛び降りた。
エプロンドレスのスカートが捲れるのを手で押さえながら着地する。
カツンっという小さなヒールの音だけが響いたが、ライフル音が轟く中ではそれは本人にもわからない。
始め茶々丸本人は別にスカートが捲れようが気にも留めない生活をしてたのだが、マスターであるエヴァンジェリンがみっともないとそれ以来人間らしさを教えられてきた。

壁を背にして敵の様子をうかがう。ジノ達が適当に相手をしているのも分からず、デスアーミーっはバカスカとライフルを撃ち続けている。
こっちに気が付いてる様子もなく、茶々丸は瓦礫や鉄くずに身を隠しながら素早く確実に接近していく。
頭上から空薬きょうが落ちてくるところまで近づいた。ここまで来て気付かれなければ問題ない。
周囲に他の敵機がいないことを確認する。後方にまだ4機待ち伏せている。この3機が落ちたら出てくるかもしれない。
茶々丸は先に増援の敵機の進軍ルートを予測し、四次元システムの四次元空間から高性能の電磁マインを取り出して設置し始める。
サイズは人間の半身ほどの大きさで、対MSにすると小さいように思えるがかなりの高性能。ひとたび踏んでしまえば雷に近い電気ショックが流れて機器類を破壊する。
6つも設置すれば十分だろう。今度こそ茶々丸は敵の背部に近づいた。
音もなく茶々丸の手にビームバズーカとガトリング砲が現れた。2mほどもある大きな得物だが、対MS用の兵器だ。

「・・・いただきます。」

迷うことなく引き金を引く。バズーカから出たビームがジェネレーターに直撃した。
突然のバックアタックに反応したデスアーミーだが、彼らの視界はすぐに黒い粒に覆われて暗闇になった。
残った2機ともメインカメラをガトリングでハチの巣にされ、関節部分をバズーカで撃ち抜かれる。
ゴシャッという鈍い音のあと、地響きをあげて3機は地にひれ伏した。と、同時に茶々丸はすぐに瓦礫に飛びこむように転がりながら隠れた。
予想通り、味方がやられたことに反応し、隠れていたデスアーミーが飛び出し、罠にかかって次々と転倒していった。
バチッという閃光が敵機の足元で光ると、デスアーミーは目をパチクリさせるように点灯させながら転んでいく。
黒い煙を頭部から噴き出し、機能停止に陥ったのをセンサーで確認し、茶々丸はエヴァンジェリンに連絡を入れる。

「敵機掃討完了。近くに敵反応はありません。」
「了解した。すぐに合流しろ。」

瓦礫を踏み台にして飛び上がり、開かれたコクピットに飛び込む。
コクピットに戻った茶々丸はシートベルトを締めながら、エヴァンジェリンに報告をする。

「マスター、ここよりさらに500m地下に、微弱ながらエネルギー反応が多数ありました。おそらく前線はそこかと。」
「ほう、連合軍もやるものだ。そこだと最深部に近いだろう?私の仕事はもうないだろうな。」
「だが、まだGDGも生き延びている。もしもの為に俺達もいくべきだ。」
「わかっている。・・・恵、織佳、お前たちはそろそろ地上へ戻れ。」
「えっ、どうして!」
「お前達の腕ではここまでが限界だ。地上で私たちの帰りを待ってるんだ。」
「俺達はまだやれる!魔装機神だってある、遅れはとらないよ!」
「私達も行かせて下さい。お願いします。」
「俺は別に構わねーと思うけどなぁ。」

また適当なこと言う!とエヴァンジェリンが怒りだした。今の腕前では魔装機神の本来の力を発揮できず、いざというときに足手まといにしかならないと思っているからだ。
逆にこう言った敵施設での戦闘経験は滅多にない。実践で経験を積んできたジノにとって、こういった機会は戦士になる上で非常に大切なことだと考えている。
変な話、霧島雪佳も危険な戦いを潜り抜けたことでその封印されていた力を取り戻していったのだ。
子供を戦場に出すのを好まないエヴァンジェリンとはそこでいつも意見が食い違う。結局はいつもエヴァンジェリンが折れ、文句を言いつつもフォローに回ってくれる。
そういうところもジノにとっては非常に心強いパートナーだ。

「俺が面倒をみる。撤退時の殿もな。俺に任せてくれないか。」
「・・・・勝手にしろ!」

ぷいっとモニター画面で膨れたエヴァンジェリンがすぐに通信を切ってしまった。
ジノはニカッと歯を見せてモニター越しだが子供たちに笑ってみせた。
いよいよもって戦闘音と振動が大きくなってきた。地下へ進めば進むほどやはり大きくなってくる。茶々丸の予想は当たっているようだ。
これ以上進めばもう子供達は後戻りしづらくなる。ジノもモニター通信を切ると、スッと笑みを消した。
全身の感覚を研ぎ澄ませ、MSの表面が自分の肌のように感覚をリンクさせる。

「よし、行こう。」

ドームから抜け、MSが余裕で歩けるほどの高さがある通路を飛んでいく。
マスターガンダムを先頭に、魔装機神が続き、最後にアンジュルグが殿につく形となった。
味方軍が築いた血路を突き進む。
途中、破壊された味方MSが無残にも大破、アームや装甲が散乱し、まるでバラバラになった人間のように見えて織佳は思わず目をそむけてしまう。中には人が乗っていたはず。
溢れだしているオイル液が噴き出した血のように見えて、お腹の奥がぐぅっと絞られるような苦しみに包まれる。
気持ちが優れず進行速度が下がってくると後ろを飛んでいるエヴァンジェリンが気にかけて、接触通信(機体と機体で接触し合う事で直接的に通信が使える)で声をかけて落ち着くまで話を続けてくれた。
その時の声はジノや恵を叱るような雰囲気は微塵も感じず、まるで家族を心配するような温かみのある声だった。初めて聞くエヴァンジェリンのその声に始めは驚いたが、次第にそれは心地の良いものに変わっていった。
その様子をモニター越しに見たジノは無言で頷きつつ、最下層へ突き進んでいった。














長い長い下降通路を進んでいく。爆発音と振動が地上近くにいたときよりずっと大きく、短い間隔で起こっている。もう前線は目の前だ。
すると、レーダーに5機の機体反応が現れた。識別コードから連合軍のMSであることがすぐに確認できた。
脱出路を確保しているのだろう。番人をしていたのはバーザムの小隊だった。
ジノ達は大きな通路を進んできたが、彼らが守る道の先にはさらに大きなトンネルのような道が延びている。
進んだ先にはバーザムの小隊が立ちふさがったので、マスターガンダムは風雲再起の手綱をひいて着陸した。
続いて恵達もその後に続いたが、足元が揺れる度に倒れそうになる。叔父の乗る風雲再起がとても羨ましく感じる。

「止まれ、どこの所属だ。」
「ジノ=マクレガー、一応ネオジオンだ。このデータで照合してみてくれ。」
「・・・遊撃隊か。・・・ッ!?聖大佐直属の部隊でしたか!失礼しました!!」
「本体はこの先に?」
「そうであります。掃討作戦は順調に進んでおります。どうかお気をつけて。」
「ありがとう。・・・いくぞ。」

マスターガンダムが手綱を引き、風雲再起の嘶きと共にトンネルの奥へ奥へと進んでいった。
マスターガンダムらの背を見送りながら、小隊員の一人が小隊長に話しかけた。

「あれが噂になってる魔装機神ですか。初めて見ました。」
「ほう、初めてなのか。あぁ、お前は地球出身だったな。俺は宇宙(そら)であれとは違う魔装機神を一度だけ見たことがある。確か、魔装機神ザムジードとかいったな。」
「あの2機だけではないのですか?」
「うむ。俺が宇宙で見た魔装機神は圧倒的だった。私がまだお前くらいのヒヨッ子だった頃だ。演習の一環で"特機"との模擬戦を行った。その時に出てきたのはあのザムジードだった。パイロットの詳細は聞かされず、噂じゃ子供だと聞いていたが・・・ありゃバケモノだ。」
「バケモノ・・・?」
「俺を含めて30機のMSを一度に相手にして、あっさりと勝っちまいやがったのさ。」
「30機をたった1機ででありますか!?」
「後で聞かされたよ、俺達の方が訓練の相手をさせられてたんだと。悔しさや呆れを通り越して笑っちまったよ。」
「そんなことが・・・。でも、そんな魔装機神が2機も来ているなんて心強いじゃないですか。」
「いや、それはわからない。俺の見当違いならいいのだが、あの2機の動きは少しぎこちない所があった。技量にしたらお前とさして変わらぬやもしれない。俺が戦った魔装機神のあれはまるでオーラが違っていたんだ・・・。」








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最終章 第五十三話




待ち伏せていたかのようにGDG(グランドデビルガンダム)はその大きな体をそそり立たせると、ジノ達は大きな影に飲み込まれる。
耳をつんざく音と共に大地が裂ける。地震のような揺れがタンクごと崖を崩し、地割れがMSの足場を破壊する。
パイロットたちは突然の巨体に驚くも、すぐさま冷静に間合いをとって足場の良い安全な距離を確保した。
MSでも見上げるような巨大な躯体。8本の大木のような脚部がクモの体ような形をしたボディから伸び、背中からは無数のガンダムヘッドが髪の毛のよう生え渡っている。
上半身はケンタウロスのように天に伸び、腹の部分には大きなガンダムの顔、そしてその頂上にデビルガンダム(MF)が組み込まれていた。
現代の人間達の姿の前に初めてその姿を晒したGDG。
ある者はその異形の姿に恐れおののき、またある者は目の前の死を察した。
こんな敵がいるなんて聞いていない。どうやって戦えばいいのか。まだ死にたくない、生きたい。
兵士達の中に動揺が現れ始め、浮足立った。それは霧島兄妹にも表れていた。

「お、お兄ちゃん、これって・・・!」
「前に遺跡で俺らが見たときより、さらにデカくなってやがる・・・ッ!進化スピードが早すぎる!」




「怯むなァッ!!」




「ッ!?」

一人の男の怒号が周囲の人間達の空気を変えた。
猛烈な勢いで空から"走ってきた"声の主は強烈な一撃をGDGに浴びせた。その一撃はGDGを後ろへ一歩後退させるほどだ。
大地を滑り割りながらGDGの前に立ちふさがったのは、風雲再起の上に立つマスターガンダム・・・ジノ=マクレガーだ。

「お前らッ!こんな奴にビビるこたぁねェッ!!」
「ジ、ジノおじさん・・・」

圧倒される子供達、それは他の兵士も同じだった。
だが、その行動は大きな意味を成している。

「俺が突破口を開く!俺達が基地へ突入してしまえば、こいつは中まで踏み込めねぇはずだ。殿も俺がやる。みんな、援護してくれ。」

ジノのその言葉が再び人間達の士気を高めた。
英気を失いかけていた兵士達の眼に光が戻る。そして雄叫び様な声がわきあがり、それぞれがフォーメーションを組み直しながら武器を構えた。
ジノは確信を得た。イケる、これなら突破できる。あいつらはまだ分かっていない。人間には隠された力がある。
人間の感情の高ぶりは普段出ない力を引き出し、チームワークは個の力をより高めていく。
個での戦いに特化しているGDGでは、その対応できる数を超える敵に遭遇した時にはその化け物じみた力は打ち崩すことが出来る。
ここ連日のように地球でGDGとヴォルベオの配下達と戦い続けるうちに気がついたことだ。
GDGが暴れている時、奴らは少し離れた場所にいる敵を狙ってやってくる。例え同じ敵を同時に相手をしても、連携をとるような行動は一切ない。
そこの漬け込むことが出来ると算段したのだ。

「酔舞!再現江湖・・・デッドリィィィウェェェェェイブ!!」

流れるような動きと目にもとまらぬ速さが残像を生み出し、マスターガンダムが風雲再起の背から飛びあがった。
GDG上体の指先からのビームに、腹部からの拡散メガ粒子砲、そして無数のガンダムヘッドの突進。
全てをジノは紙一重でかわしていく。一匹のガンダムヘッドの上を背を滑り、弧を描く形でGDGの背後に回り込んだ。そのまま背部にマスターガンダムのキッキが決まった。
バランスを保とうとした前足に連合軍の攻撃が集中する。上空でエヴァンジェリンが指示を出している。
爆発で足場が崩れたGDGはバランスを崩し、膝を屈した。チャンスが生まれたのを見逃すわけがない。

「今だ!連合部隊は突破するんだ!」

もがくGDGの横をMS軍が次々と通り過ぎていく。突破は成功した。ほぼすべてのMSがGDGを通り過ぎて、敵基地へと向かっていった。
北部から進軍する本隊も苦戦を強いられながらも基地正面にまで進軍を進めているようだ。

「よし、このまま雌雄を決する!」

すでに体勢を立て直し終わっているGDGに再び攻撃を仕掛ける。まずは攻撃手段を断つ動きにジノは入った。
まずはGDGの後部に繁殖するガンダムヘッドだ。こいつらがいると思った通りに本体への攻撃が出来ない。集中的に攻撃を始めた。

「恵!」
「いくぜ、プラズマソォォドッ!」

グランヴェールの一撃がガンダムヘッドの頭を切り落とした。砂煙をあげながら地面にゴロリと頭が転がり、胴体がウネウネと動いた後に力なく垂れ下がった。
グランヴェールに襲いかかるガンダムヘッド達に、高圧の水流が直撃した。ガッデスのハイドロプレッシャーだ。
兄弟の息の合った攻撃はガンダムヘッドを逆に翻弄する。本体はジノとエヴァンジェリンの猛攻を押さえきれず、防戦一方になっている。
砂漠の上に金属片とオイルがぶちまけられる。そのオイルに火花が飛び散って炎上し、辺り一面は砂塵と炎の灼熱の戦場となっていた。

「ファントムフェニックスッ!」

アンジュルグの一撃がGDGの太い足を両断する。自身を支えられなくなったGDGが横に倒れ込む。

「これで最後にしてやる。最終奥義・・・」
「ジノおじさん、みんなの仇をとって!!」
「織佳、もう少し離れろ!巻き込まれるぞ!」

グランヴェールがガッデスを引きこむように退却する。
周囲の熱風をも巻き込み、ジノの手の中で気が加速度的に収束していく。
その大きさも、通常よりも大きく熱量も凄まじい。

「・・・デビルガンダム、未来のために消えろ。奥義・・・石破ッ天驚拳ッッ!!」

放たれた気の塊は辺りの大気をも吸い上げながら、まっすぐGDGに向かっていく。
織佳はその光がGDGを包み込むように見え、また恵には自分の中の何かを変えるものにも見えた。
GDGの目の前で気弾が炸裂した。強烈な閃光が一帯を包み込み、その場にいた者達の視界をホワイトアウトさせる。
大地も暴れるようにうねり、グランヴェールらはその場で膝を屈し、ガッデスは槍を大地に突き刺した。
その様子は本体にも伝わり、聖やアオイはその様子を固唾を飲んで見守った。

「やったか!?」

砂煙が舞い散る。熱源の反応はある、だがまだ奴の残骸は確認できていない。
風が凪いだおかげで少しずつ全貌が見えてくる。
その全容が見えた時、その場にいたものは言葉を失った。

「野郎、何のつもりだ!」

傷つき、行動不能に陥っているGDGの目の前には巨大な影があった。
右腕には巨大な両刃剣。煌めく両肩の新幹線、そして胸には大きく目立った機関車のボディ。

「・・・マイトガイン・・・!」

そう・・・石破天驚拳を両断し、GDGを助けたのはマイトガインだった。
末来世界ではGDGを討つべく戦っていた戦士がなぜGDGを助け、ジノ達の前に立ちはだかるのか。
その状況に子供達は混乱する。何度も自分を助けてくれた仲間が自分達に剣を向けていた。
なぜ?裏切り?操られている?色々な考えが霧島兄妹の頭の中をぐちゃぐちゃにかき乱していった。












ジノ達がGDGとの激しい戦いを繰り広げていた頃、地球の大気圏でネオジオンの部隊と合流を図ろうとしていた舞人にもヴォルベオ軍の魔の手が忍び寄っていた。
大気圏への突入は人類が宇宙に進出してから長い時間が経っても危険が伴うものであり、少しのミスが大きな事故につながることもある。
故に戦略的に敵が大気圏へ突入する際は絶好のチャンスでもある。

「こんな時にッ!」

弧を描くように舞うシャイニングエッジがデスアーミーを腹から分断した。
ファトゥムを切り離し、ドダイのようにドッキングして敵陣の中へ突撃する。
ネオジオンと合流した舞人の目の前に出現したのはデスアーミー軍団だ。かなりの距離は置いているが敵の艦隊もやってきている。

「ククク・・・桜井舞人、まだガキ共に合うには早い。」

艦隊の中央にはシフティが指揮するDGアドラステアが浮かんでいる。DG細胞に侵食され異形な形となってはいるが、特徴的なタイヤ戦艦の姿は辛うじて残していた。
このデスアーミー軍団は彼の持つ軍団だ。戦艦からは次から次へとデスアーミーが飛びだし、全てが出尽くす頃には舞人達の辺りはデスアーミーに空域を占領された。
後方のネオジオン軍からの援護射撃が目の前の雑魚を一掃した。できた突破口を使って敵陣へと飛び出していく。
ファトゥムからのビームキャノン、ハイパーフォルティスと同時にビームライフルも使う。
狙いなんか付けなくても撃てばどこかのデスアーミーに当たるような状況だ。手当たり次第撃墜していく。

「なろう・・・撃っても撃っても出てくるぜ・・・!」

しかし、たった1機のMSと小部隊では圧倒的な数に押されるばかりだ。
部隊の方もなんとか耐えてはいるがいつ撃墜されるかわからない。状況は限りなく不利なものだ。
地上からの支援も期待できない。援軍の部隊が到着するにはかなりの時間がかかる。
こんな所でやられるわけにはいかない。何か、この状況を打破する何かが欲しい!何でもいい、何かよ起きろ!

『ジャスティスのパイロット、我々に構わず行け!地球へ!』
「馬鹿野郎!お前ら死ぬ気か!」

モニターに映る兵士。まだ若い男だ。自分と同じくらいか少し上くらいだろう。
彼の後ろでは艦長が爆発音が響く中、怒号と共に指示を出している姿が見える。
通信をしている目の前の兵士もまた揺れるブリッジに踏ん張っている。

『アンタ、グレミー様のいるオーストラリアに向かうんだろう?!なら、アンタをこんなところでやらせるわけにはいかないだろ!』
「お前らを残して行けるかよ、生き延びることを考えろ!」





『桜井舞人よ、聞こえるか。』

二人の会話中、通信が割り込んできた。
声だけだが発信元からそれは敵の戦艦から発信されているものだとすぐにわかった。

『ヴォルベオ様の命により、お前はここで消えてもらう。』
「おいお前、すぐに戦闘をやめろ!」
『思った以上に馬鹿なんですね、あなたは。消すターゲットを見逃すなんて馬鹿でもしませんよ。まず手始めに邪魔なゴミを掃除していまいましょう。』
「ッ!?待て!!」
『ガンダムのパイロット、逃げろ!生きて、グレミー様に・・・』

ブツッ・・・

回線が強引に断ち切られ、兵士の移っていたモニターは暗闇に変わって最小化された。
と同時に目の前の先にいたネオジオンのムサイ級戦艦が轟沈した。音もなく光だけがパッと輝いた。そして衝撃波がジャスティスのボディを通じて舞人の体を揺らす。
最期まで自分を気にしてくれた男はあれに乗っていた。奴はゴミを掃除するように簡単に命を払い捨てた。
合意図の中に虚脱感と声にならない怒りがこみ上げてくる。あの野郎だけは許せない。ブリッジから引きずり出してぶちのめしてやる。

「許さねぇ、絶対に!」
『吠えるがいい。誰にも知られぬままここで朽ち果てろ。』

それだけ言って通信が切られた。
いいだろう。一点突破からあいつだけを狙って撃ち抜いてやる。
ぐっとスロットルを握り締めた。トップスピードなら、このジャスティスであの大群を切り抜けられるはずだ。
ペダルを踏み込もろうとした時、レーダーに反応が出現した。信号は味方機だ。

『おはようございます。・・・少し遅すぎましたか。』

宙域に現れたのはヴォルドと彼の乗るデビルゼルベリオスだった。
挨拶代わりにデビルゼルベリオスのツインビームガトリングが数機のデスアーミーを撃墜した。
その様子はシフティのほうにも伝わっていた。

「今頃新しい敵?・・・何ッ!デビルゼルベリオスだと!馬鹿な、奴は今地上にいるはずでは・・・」
『舞人さん、ここは私に任せて降下してください。私はその為に地上から迎えに来ました。まぁ独断ですがジノさんとは話は通していますよ。』
「いや、俺は奴に・・・」
『いけません!今は少しでも戦力をオーストラリアに集めなければなりません。地上では恵君や織佳さんも勇敢に戦場に立っています。あなたが一緒にいなくてどうするのです!』
「くっ・・・」

渋々と武器をしまうジャスティス。その前にデビルゼルベリオスが入り込んだ。
銃口を相手に突きつけ、ジャスティスに指で相図を送る。
相手の動きが鈍っている。デビルゼルベリオスの登場で敵は動揺しているようだ。

『さぁ、敵の動きが鈍いうちに向かってください。』
「一人であの数は無理だ!」
『そんなことはわかっています。機を見て私も撤退しますから、あなたは自分のことを考えてください。私も少し敵の動きを見ておきたいのです。』
「・・・わかった。無理をしないでください。」

ジャスティスはファトゥムを再び切り離し、大気圏へと向かっていく。
それを追いかけようとしたデスアーミーだが、目の前をビームガトリングの弾丸が彼らの鼻先をかすめた。
デビルゼルベリオスはインフィニットジャスティスが大気圏へ突入していくのを見送ると、いよいよ戦闘態勢に入った。
ファトゥムを足場にして突入を開始するジャスティスは、デビルゼルベリオスが敵陣の中へ突撃していく姿を、摩擦熱で赤く景色が変わった世界の中で見守った。
ただただ上手く離脱して生き延びて食えることだけを信じて。

「何をやってる無能どもが!見す見す奴を大気圏に突入させるとは!」

シフティが怒り心頭の中、デビルゼルベリオスが自分達に攻撃を仕掛けてきた。
縦、横、斜めと宇宙空間を自在に泳ぎ、デスアーミーらを翻弄する。
まごついている間にも次々とデスアーミー達に風穴があけられていく。
あまりのスピードと実力差と縦横無尽の予測不可能な動きに太刀打ちができない。まして近づきさえすれば、大型のシールドバンカーによって胴体ごと破壊しつくされてしまう。

「ガトリングだけでは蹴散らしきれませんか・・・。なら、武装を追加しましょうか。」

デビルゼルベリオスが一歩後ろに下がると、機体の頭上の空間から光が漏れ、大きな銃身が姿を現した。
大型のヘビィマシンガンだ。両手にガトリングとマシンガンを手に取ったデビルゼルベリオス。彼が再び敵陣の中を舞うと、無数の弾丸が次から次へとデスアーミー達に命中していく。
回避行動も不規則な動きで相手を翻弄する。その動きは直覚的でまるで敵からの攻撃が見えているのではないかと思えるほどの回避さばきだった。

「ええい、何をしているんだ!早く撃ち落とせ!デスアーミーども、体当たりしても構わん!是が非でも奴を食い止めるのだ!数で押し切れ!!」
「このゼルベリオスをただの戦闘マシンと思わないことです。敵の動きが活性化する前に頭を押さえさせていただきます。」

デビルゼルベリオスの翼が広がった。強力なスピードを駆使して距離を縮めていく。

「こんなこともあろうかと・・・」

デビルゼルベリオスの右手が光り輝く。
四次元システムを起動させたデビルゼルベリオスの手に巨大なバズーカ現れる。砲身はゼルベリオスの倍近く、30m程はあるだろうか。砲口も1mとかなり大きい。
群がるデスアーミーの中心部にバズーカの砲口を向ける。砲口の中に鈍く光るのはミサイルの鼻先だ。

「照準セット・・・上手く稼働してくださいよ・・・。」

照準が合わさり、ゆっくりと回りながら2つの緑の照準が1点に重なり赤色に変わった。中心にいるデスアーミーにロックオンマークが表示された。

「狙い撃つ!」

ニヤリと笑みを浮かべて、ヴォルドは引き金を引いた。
衝撃と同時にバズーカから巨大ミサイルが発射された。真っすぐ目標に向かって突撃していく。敵の攻撃がミサイルに向けて行われるが、半端なビームではミサイルを撃墜することは叶わなかった。
ガツン!と目標のデスアーミーの脇腹を捉えた。グニャリと押し曲げられ、デスアーミーが爆散すると同時にミサイルが爆発する・・・
と思われたが、ミサイルは爆発することなくボディが割れて飛び散った。
ミサイルだったものの中身は無数に詰め込まれた"バグ"だった。

バグ・・・それは人間の体温や、呼吸による二酸化炭素を感知し発見した人間を攻撃する、円盤型の自律型小型殺人兵器。
「親バグ」と呼ばれる大型サイズは機体に埋め込まれたチェーンソーを回転させながら飛行する円盤で、車両やMSなどを攻撃。
そしてこれが射出する小型円盤「子バグ」は自爆用の爆薬と小型レーザーを装備して建物に侵入、建築物や人間を攻撃する。

元々は人間を殺すために作られた殺戮兵器であり、禁断のMA"ラフレシア"や戦艦ザムス・ガルなどに装備されていた。
機械的に人を殺害していく非人道的兵器と蔑まれ、さらに歴史学者や兵器開発者からの強い反発から現在では開発を法で禁止されている。
しかし、ある一部の学者は兵器そのものが非人道的なものであり、テロや軍の戦力としてMSやMA、SRが人を殺めていることも非人道的であり破棄すべきだと主張している。
この話に関してはヴォルドは条件付き賛成である。何度か学会にも参加したが、やはり民間で資金があればロボットを作れてしまう現状は懸念している。軍縮は必要ではあると。
ただ、今となってはこのような想定外の敵との戦争が起こった時に軍縮の風潮は足手まといにしかならない。
今回の敵の襲撃、連邦軍とネオジオンが協力体制がなければ世界各所で起こる敵の攻撃に対処しきれないであろう。敵は空間を跳び越えて突然現れるのだから。
軍縮が進む彼らの力では互角に抵抗する程度で、逆に敵を攻めにいくまでのことは難しいだろう。故にMSTコロニーや霧島組のような民間の力が裏で頼りにされているわけだ。

「さて、効果の程は・・・」

砲口を下ろし、バグの動きを見守る。
ミサイルから噴き出すように飛び出したバグは、戦場を虫のように飛び回り、親バグから子バグが次々と飛び出していく。
子バグが体から突き出た刃を向けてデスアーミーに突進していく。一体に4,5匹のバグが群がる様に突き刺さる。
親バグを撃ち落とそうとデスアーミーが攻撃を加えたが、破壊された親バグからは子バグが中から飛び散り、ますます戦場が混沌の渦に巻き込まれていく。
突き刺さった子バグ達は爆発などの動きは見せない代わりに、怪しく何かの信号を出し始める。
それは1機だけではない、次から次へとデスアーミーに刺さった子バグ達は共鳴するかのように信号を一斉に発信し始めた。

「た、大変ですシフティ様!デスアーミーのオートパイロットに異常発生、操縦不能!」
「どういうことだ、原因を突き止めろ!」
「敵が散布したと思われる新型兵器によるものと思われます。こちらの信号を遮断し、機体へ直接データを流しこんでいる模様。」
「奴らめ、我々のシステムを解析したと言うのか。この宇宙の技術を甘く見たか・・・!」
「だめです、操縦不能になったデスアーミーが友軍を攻撃!自爆する機体も現れました!」

戦場は機械同士の殺戮ショーと化していた。
背中や脚にバグが突き刺さっているデスアーミーは操られるままに仲間のデスアーミーを攻撃していく。
他のデスアーミーに抱きつき自爆するのもいた。
爆発の振動、金棒で叩き潰される姿、ビームに貫かれ爆発する姿・・・機械の阿鼻叫喚が聞こえてくるようだった。
ヴォルドはその様子を黙ってみていた。

「・・・慧音さん、あなたの開発した対DA(デスアーミー)用ノイズシステム、"リトルナイトバグ"・・・効果は絶大ですね。」

敵のオートパイロットを完全に掌握し、こちらが手を出さずとも自分達で全滅していく。
味方の損害を最小限にまで軽減に、敵側に対して絶大なダメージを負わせる兵器ほど優秀なものはない。
ヴォルドは思う、慧音が作り出したこの新型バグはこれからの戦いに多大な影響を及ぼすことは間違いないだろう。彼女の頭脳とそれを体現する能力には本当に舌を巻いてしまう。
今回のこの試験運用で実用化は確実のものとなった。地上に密かに住みついているヴォルベオ軍の全ての基地を数日で叩き潰す事も夢ではないはずだ。

「撤退だ!桜井舞人にも逃げられ、戦力を半分も潰されたなどと・・・良い笑い者だ!」

シフティの一声で生き乗ったデスアーミーが撤退していく。捕らわれた他のデスアーミー達はまだ自滅を続けていた。
彼らを残したまま、戦闘宙域にいた敵部隊は空間の狭間の中へ消えていった。







最終章 宇宙西暦26年12月&44年5月 | コメント:0 | トラックバック:0 |

最終章 第五十二話






それは一瞬の出来事であった。
人の悲鳴があがると同時に、ガラスが割れるような音が院内に響いた。
中庭にいた舞人達は音のした方へ振り返り、ハッとした。
目の前の3Fの窓を突き破り、何者かが飛び降りたのだ。その窓はさっき自分達が居た場所、雪佳の病室だ。
黒い装束に身を包んだ人物は転がるように受身を取って着地すると、すぐに立ちあがって走り出した。
その後に続いて、窓からもう一人の影が飛びだした。離珠だ。
エプロンドレスが汚れるのも気にせずに、同じように受け身を取りながら着地をし、そのまま後を追いかけて走っていった。
舞人が病室に向かって走り出した。スノは美月に院内へいくように促し、自分は離珠の後を追走した。

舞人と、遅れて美月が階段を駆け上がると、雪佳のいる病室の前には野次馬でごった返していた。
看護師や医師が人だかりをかき分けて中へと入っていく姿が見えた。その手には大きな医療用バッグが握られている。誰かが怪我をしたのだろうか。
まさかと思い、二人も野次馬達を突き飛ばさんとする勢いで病室の中へなだれ込んた。
やっとの思いで部屋の中に飛び込むと、病室は思っていたよりも静かだった。
ベンチや荷物台はひっくり返り、まだ花瓶が割れて散乱していた。すぐに職員によって花瓶やこぼれた水は片づけられた。
ベッドの上では雪佳とグレミーが看護師から手当てを受けていた。やはり彼らは襲われたようだ。

「大丈夫か!?」
「え、えぇ・・・・私は大丈夫。でも、兄様が。」
「何、ただ手首を捻っただけだ。それよりも舞人、お前は見たか?」
「あぁ。黒い装束に身を包んだ奴だな?結構小柄に見えたが・・・」
「その身のこなしは尋常ではなかった。おそらくヴォルべオの手の者だろうが・・・離珠が居なければ私も雪佳も殺されていただろうな。」
「兄様が病室を出た直後に入り込んできたんだ。身長だけなら兄様の半分くらいしかないのに、簡単に投げ飛ばしちゃうし。驚いたわー。」
「何で気がつかなかったんだ!」
「しょうがないでしょ!看護師さんの変装してたし、それに・・・あの人、気配もなかったけど、感情もなかった。」
「アンドロイドか?」
「ううん、ちゃんとした人間。でも本当に怖いぐらいだった。人を傷つけることに何の感情もためらいもなかった。それこそハサミで紙を切るような感覚で・・・」

しばらくの沈黙が流れた。
グレミー曰く、患者や看護師はネオジオン軍人でもあるから、こういった非日常的なことに動揺はしない。
むしろ、グレミーが狙われたことに対する動揺が広がりつつある。
婦長が注意するにも関わらず、若い女の看護師達は部屋の前から動こうとはしなかった。
人だかりが後ろに振り返り、何かを避けるような動きを見せた。
人ごみをかき分けて病室の中に入ってきたのは離珠だった。
エプロンドレスが所々汚れてしまっていたけれど、ケガはしていない。が、その表情は硬い。

「グレミー様、只今戻りました。」
「うむ。」
「申し訳ありません。取り逃がしてしまいました。あの刺客、かなりの手練(てだれ)ではないかと・・・」
「お前が逃がすほどだ。余程の足を持っていたのだろう。」
「いかがいたしますか?」
「警戒を強化しておけ。いつ違う刺客がやってくるかわからないからな。」
「はい。屋敷のメイド達にも言いつけておきます。」

結局その日は何の音沙汰もなく終わり、この出来事は霧島組とネオジオンの中で処理されることとなった。
雪佳、グレミーを直接狙ってきた動きに、様々な場面でその警備を強化せざるを得なくなってしまった。
グレミーの周辺には専属のメイドとSPが取り囲み、離珠はガードをかねて雪佳の世話をすることに決まった。もちろんスノもセットだ。
スノ本人は雪佳と話しができると嬉しそうにしていた。










それから1週間近く経った頃、桜井舞人は愛機"∞(インフィニット)ジャスティス"を駆り、MSTコロニーを経由しながら地球に向かって飛び立っていた。
その理由はグレミーから離珠に情報が入ったからだ。

"ヴォルベオの部隊の基地をオーストラリア北西部の山間部に発見した。地上にいるジノ達と合流後、基地を叩く。"

大規模な戦いになると予感した舞人は自身も戦うべき相手を見据えるために出立することを決めたのだ。
その後の連絡で、指揮をとるのは聖で、その補佐にアオイがつくことになった。
聖が直々に戦場におもむき、アオイを補佐につける・・・大規模な戦いになると予想したのはこの二人がいるからだ。
聖、アオイ、そしてもう一人イクスと3人でチームを組み、グレミーの側近として長い間彼に仕え、多くの経験を積み重ねてきた。
もちろん霧島組との関わりも強く、雪佳が学生時代の時はシミュレーションで雪佳・観鈴・パトリオット3人を相手に互角以上の戦いを見せたこともあった。
指揮官としても、パイロットとしても3人の豊富な経験はネオジオンの中核的な存在となっている。

「ジノ達も来るという事は恵達(あいつら)も来るってことだよな。」

事態の終息を迎えることができず、希望を託して子供達を過去の世界もといこの時代へ送り込んだ未来の俺達。
やはり全てが後でに回っていたことや、GDG(グランドデビルガンダム)の存在が大きい。
奴の喉元に刃を突き立てるには、まず相手より先に行動していくこと、そしてGDGを葬り去ることが先決だ。
GDG本体はまだ見たことはないが、一戦やり合った事のあるジノ達とならば奴を潰してやれないことはない。これからいく基地にいればチャンスだ。
そんなことを悶々と考えている一方で、また再び子供達の事が思い浮かんでくる。
会ったらなんと声をかけよう?舞人の中で、一週間前の出来事が甦る。スノに言われた言葉が何度も自分の中で反復していく。
もう軽はずみなことは言わないように決めた。あとは行動に移すだけ。
未来から来たとはいえ、彼らは自分の息子と娘だ。頭ではわかってはいるのだが、やはり何か壁のようなものが出来ている気がして胸に苦い感触が渦巻いていく。
計器が音を立てた。グレミーが連絡を付けてくれたネオジオンの部隊から通信が入ってきたのだ。
合流したらいよいよ地球へ降りていく。舞人は通信回線を開いた。












その頃地上では、着々とネオジオンが集結していた。
グレミーから支援要請を受けていた地球連邦もいくつかの巡洋艦を回してきている。
連邦側にはヴォルベオの本当の事は伝えてはいないが、彼らには破壊兵器を数多く所持する悪質なテロリスト集団と位置付けている。
合流時にグレミーからその事を聞いたエヴァンジェリンは「その程度で済めばどれだけ楽なものか」と冷やかな笑いを浮かべていた。

オーストラリアは冬季も過ぎ、もうすぐ長い夏季がやってくる頃だ。
愛機アンジュルグに乗るエヴァンジェリンは空調が効いているにも関わらず、さらに小さな扇風機を顔の目の前に持ってきて涼んでいる。
暑がりもここまでいけば微笑ましくさえ感じる。

「ようやく我々の側から攻撃をするのですね。」
「あぁ?そうだな、今まで後手後手だったからな。足元をすくっておけば後で楽になる。それに・・・」

エヴァンジェリンは右に顔を向けた。その視線の先にはオーストラリアの荒野を踏みしめる赤い機体と青い機体の姿がある。
先日、ようやく発見することが出来た新たな魔装機神だ。
末来世界のエヴァンジェリン達が子供達に託した何か。それは新しい力となってくれるものだった。
新しい力、炎の魔装機神グランヴェールと水の魔装機神ガッデス。
それぞれが人の手が入りづらい地域に封印されていたこと、また2機が封印されていた遺跡らしき石造の建物や洞穴は人が無意識に近づかないように仕向ける呪術が施されていた。
恐らく力のあるものでないとこの呪術には気づくことすらないだろう。実際、未来からの情報がなければエヴァンジェリン達ですら気がつかなかったほどだ。
グランヴェール、ガッデスを封印から解き放った時、ヴィラノスに襲撃されたものの、魔装機神の働きで撃退することができた。
この力は大きい。子供達は両手を上げて喜んでいたが、ジノとエヴァンジェリンはどうも腑に落ちないところがあった。
確かに2機の魔装機神は強い。長年の封印から解き放たれた起動の直後とはいえ、敵の大部隊を退けてしまうほどだ。
しかし、二人は戦闘の様子を見て思ったのだ。"何かパワー不足なところがある"と。
ある意味それはパイロットの力量にも影響があるのかもしれない。
彼らが今まで見てきた魔装機神は霧島雪佳と神尾観鈴の両名が乗る風の魔装機神サイバスターと地の魔装機神ザムジード。
そのパワーは数ある強敵を打倒してきた。特に精霊憑依を発動したサイバスターは無敵の強さを誇る。
まだ恵も織佳も技術だけは一人前だが、魔装機神の操者から見ればまだまだ一人前とはいえない。
二人が経験を積み、精神的成長に大きな飛躍があればきっと彼らも精霊憑依を会得するかもしれない。その時、あの対なる2機からは凄まじい力が解き放たれることだろう。

「(そのためには、なるべく多く奴らを戦場に出させなければならない、か・・・。フッ、保護者としては失格だな。)」

機体を見つめながら、エヴァンジェリンは自分を嘲笑した。

「彼らの力ではまだまだあの機体の力は引き出せないと思われますが。」
「そうだな、茶々丸。お前の分析は正確だな。しかし・・・」
「人は時として、計算では測れない力を出します。その時が彼らの成長の頃合い、ですね?」
「私のセリフをとるんじゃない!私が決め台詞にと考えていたのだぞ!」
『おい、動き始めたぞ。』

頭上から声が聞こえてきた。崖の頂上で風雲再起の背中の上に立つマスターガンダムからだ。閉じていたマントを展開し、空を見上げている。
その視線の先には北の空から続く白い線がいくつにもわたって空に縞模様を描いていた。
沿岸部からの巡航ミサイルだ。超長距離からの攻撃は原始的ではあるが、最も安全な戦い方だ。
その兵法が通じる相手ならば。

「ジノさんッ!」

子供達の声が上がった直後、上空から急降下を始め、目標地点を突き進んでいたミサイルは次々に赤い光線に撃墜されていった。
時間差で爆発音と衝撃がジノ達を揺さぶった。

「撃墜したという事は、よほど基地をぶっ潰されたくないってことだな。」
「ジノ様、ネオジオンから第一陣が動き始めました。」
「よし、俺達も出るぞ。駆けろッ!風雲再起ィッ!」

馬の嘶きが響き、地響きを上げながら崖を走り下る風雲再起。猛烈な勢いで加速していく。
中腹あたりで山を蹴り上げて飛び立つと、それは天駆けるペガサスのようだった。

「遅れるな!敵の目が聖達に向いていればこちら側の敵は少数のはずだ、押しこむぞ!」

続いてアンジュルグも黒いの翼を広げて飛び立った。遅れまいと、魔装機神も地上から追いかけていく。
山をまたぎ、崖を超え、砂漠を駆ける。見る見る内に敵のいるエリアへ近づいていく。
前方に先に出撃した部隊の姿が見えてきた。
アッシマーやズサ、リ・ガズィなど空戦タイプのMSが混合部隊となって押し寄せ、中にはドダイに乗ったザクやグフ、ギラ・ドーガのほか、ジム系やジェガンタイプも混じっている。
地上からはドムやゲシュペンスト、タンク系の支援機体も揃っている。もう衝突は目の前だ。

「マスター、地上より熱源多数。機体はデスアーミー、デスバーディ。数は・・・200。」
「に、にひゃくぅ!?」
「恵、ビビってんじゃねぇ!団体様御一行がお出でなすったぞ、各自注意しろ!」
「だ、誰がビビるもんか!」

爆音と閃光が入り乱れ、目がくらみそうになる。
恵のグランヴェールは織佳とガッデス前に進み出て、地面から這い出てきたデスアーミーに鉄拳を見舞った。
その背後から出てきたデスバーディはガッデスの槍の串刺しになる。

「トォッ!」

マスターガンダムが風雲再起の背を蹴り、天空高く舞い上がる。
両手で握り締めたマスタークロスが大地をなめるように払った。
数体のデスアーミーが両断、そして爆散する。

「ジノの背中を狙うとは良い度胸してるよ、お前!」

デスバーディの頭部にアンジュルグの放ったエネルギーの矢が命中する。
瞬く間に4機、5機とヘッドショットでデスバーディを撃墜していく。





戦闘が開始されてからは、海上で待機している母艦の中は慌ただしかった。
直接的な攻撃や被害が無くとも、戦場に送り出している味方を一人でも多く生き延びさせるためにブリッジも戦場となっていた。
戦況の把握や軍の進退のタイミングを計るのは当然のこと、連邦の母艦との連携・指示にも気を使っていなければならない。
ブリッジ席に座り、細かな指示を出す聖の横で、アオイは作戦テーブルの画面上で戦況を把握に努めている。
彼女の見る作戦ボードは分刻みで敵味方を表す駒が増えたり減ったりしている。
敵が増え、味方が不利になると画面を触り、味方の駒を最適なエリアへと導いていく。その情報は通信班とリンクしていて、リアルタイムでその指示が飛んでいく。

「敵増援、チームデルタ、援護に向かってください。」
「ガンマチーム、前に出すぎです。後退してください。」
「敵がこちらに接近している。防衛要請。」

通信担当の会話がせわしなくブリッジの中に飛び交う。
入り乱れる通信会話の中、一つだけ気になる言葉がアオイの耳に入ってきた。

「S、Wフィールド、敵殲滅率68%。進軍続けます!」

部下のその言葉に、アオイは気になった。戦闘開始から約20分、あまりにも早すぎる。
敵の布陣は自分達のいる北部海岸方面からの進撃に備えた形だ。故に北部から東部にかけての守りが頑丈になり、その分だけ南と西が手薄になる。
確かにそこはジノ達が進軍しているエリアだし、敵の殲滅と進軍が早い事には納得できるが・・・。
手薄だからこそ、足止めのトラップや強力な兵器が置かれている可能性は高い。アオイの中で不安がよぎる。

「他の方面の戦況は?」
「N、Eフィールド、敵の攻撃激しく進軍が滞っています。敵の半数以上がこちら側に集中しています。」
「聖、これってまさか・・・」
「いや、まさか・・・。念の為だ、WとSフィールドに増援要請、ジノ様達の援護を。もし運よくトラップが無ければ一気に畳みかけるチャンスだ。急げ!」
「待って下さい、大佐!」
「どうした?」
「Sフィールドで進軍している陸上戦艦より通信、超巨大な熱源が地下より現れたそうです!」

敵大型兵器の出撃の連絡。聖とアオイの悪い予感は的中した。

「新型か?」
「新型です。見たことの無い巨大兵器です。」
「大佐、向こうの索敵係から現地の映像が送られてきました。」

映像の信号はアオイの手元の作戦ボードに渡り、全体へ映し出される。
映し出された敵機を見て、聖は厳しい表情を浮かべた。

「これが、イクスの言っていた敵の超大型デビルガンダムか。」

彼の見るモニターに映し出されていたのは、グランドデビルガンダムだ。
ついに現代で稼働させたヴォルベオ軍は悪魔の兵器を起動させ、戦場に送り込んだのだ。












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最終章 第五十一話




ネオジオン アクシズ内部

「それでは霧島様、また検査の時間に来ますからよく休んで下さい。」

染み一つない真っ白な白衣とスカートに身を包んだ看護師が部屋から出ていった。
聴診器や血圧計がのるトレイを腰の高さほどの台車にのせると、次の患者の部屋へと歩き出していった。
扉から離れていく看護師と彼女が押す台車は、揺れる度に満載されている機材や器具がカチャカチャと小さく音を立てていった。

足音が小さくなっていくと、広い個室用の病室はガランと静まり返った。
部屋は縦長で、入って右側にはソファーが置かれている。
ベッドの脇にある白い棚の最上段にはテレビが置かれているが使われた様子はない。
その下の段、ベッドから手を伸ばすと丁度良い高さの上にはコップ、薬、水などが置かれ、一番下の棚にはタオルや衣類が綺麗に折りたたまれている。
キチンとした病室のベッドの上には病室の主、霧島雪佳が座っている。
座っているというのは、ベッドがリクライニング式でイスのような形にベッドが変形しているから。
雪佳は分厚い書物を膝の上に乗せ、黙々と目で文を追っている。病院送りにされたとはいえ、久しぶりに仕事から解放されて自分の時間ができている。
これはチャンスだと思い、読めなかった本を読みあさる生活を送っている。これで散歩もできれば言うことなしだ。
とはいえ、まだ体の中に染み込んでいった毒のせいで指先にはまだ麻痺が残り、歩こうとするとつまづく事が多いので外出はできない。
外に行きたい時は、今自分の食事を買い出しにいった舞人と一緒に行かなければならない。
それにしても舞人の帰りが遅い。いつもなら4、5分で戻ってくるのだが・・・
まぁいいか、と本に目線を落とし続けていると、ふいに誰かの気配がこちらに近づいてくるを感じた。
人数は4人。二人は親しみのある感覚。これは誰だかすぐに分かった。けど、あとの2人はわかりにくい。
普段、通行人程度なら感じはしないのだが、こちらに意識を向けている感覚がある。まるでじっと見られているような。
本を閉じ、棚の上に置いて雪佳はシーツの乱れを直しながらドアの前まで来た気配に目を配った。
そして、それとほぼ同時にドアがノックされる。

「・・・私だ。入るぞ。」

声の主はグレミーだった。
どうぞ、と一声かけると静かに扉が開き、見慣れた義兄の顔が見えた。その手には花束が握られている。
金色の髪、モデルのように整った目鼻立ち。子供のころから兄と慕っている雪佳もドキッとすることもある。
病室の外で看護師たちの黄色い声が遠くから聞こえてくる。
グレミーが病室に入ると、その後ろから3人の人間が中に入ってきた。

「失礼致します。」

ペコリと頭を下げて、貴婦人の礼をしたのは離珠とスノだ。そしてもう一人病室に入ってきた。

「こんにちわ・・・」

恐る恐るといった感じで入室したのは美月だった。
少し疲れているのか、表情がやつれている。

「いらっしゃい。今日は千客万来ね。」
「調子はどうだ。専属医から報告は聞いているが・・・」
「雪佳様・・・。」
「もう、兄様も離珠も心配しすぎよ。ほら、この通り!」

右腕をあげて力こぶをつくるマネをしてみせると、二人は苦笑しながらも安心してくれたようだった。
ただ、グレミーが持ってきた花を花瓶にさしているスノと、ドアの近くに立っている美月の表情は堅い。

「そういえば、スノちゃん達は地球にいってるんじゃなかったけ?息子達と一緒に。」
「え、あ・・・あの・・・」

スノは突然のことにグレミーのほうへ顔を向けた。
どうやら話をしたいが主人がいる手前、で勝手に話すこともできずにうずうずしていたようだ。
表情が堅かったのはそれが原因のようだ。グレミーが小さくうなづくと、スノの表情がぱぁっと明るくなった。

「ありがとうございます、グレミー様。昨日戻ってきたのです、雪佳様。まだ織佳様達は地球に残っています。ジノ様と共に色々と準備を整えているようです。」
「そう。話の細かい話は兄様から聞いてるよ。悪い奴から何回も街を救ったんだって?」
「はい!あのときは本当にダメかと思ったんです。でも、ジノ様達が何度も敵を追い返して、私達の出番がないくらいに!ですよね、先輩?」
「スノ、ここは病室ですよ。」

離珠から注意され、途端にスノは小さくなってしまった。
苦笑しながら雪佳は美月のほうに目線を移した。彼女は少しうつむいたまま、遠いドアのそばで立っている。

「どうしたの。こっちにおいでよ。」

はっと雪佳のほうへ顔をあげる。美月は病室にいる面々の顔いろを伺うように恐る恐るベッドに近づいてきた。
お見舞いに来たというより、子供が親に説教を受けに来ているような、そんな面持ちだ。

「月のフォン・ブラウンを守ってくれたんだって?ありがとう、美月ちゃん。」

手を取ってそう伝えると、美月は驚いた表情を見せた。
美月はフォン・ブラウンを襲った原因は自分にあると思い、それを咎められるのを恐れていた。
ヴォルベオの配下が起こしている争い。彼らを呼びこんでしまったことに彼女は責任を感じているのだ。
罵声の一つや二つは覚悟していたが、お礼を言われるのは予想していなかった。
心に圧し掛かっていた重しがぐっと引き上げられて軽くなった気がするが、反面申し訳ない気持ちも残っている。

「あそこには私の組の人達も働いているから心配だったの。たった1機で戦い抜いたって聞いたときは驚いたわ。」
「いえ、あれは慧音さんとHiνガンダムの助けもあって・・・」
「謙遜することはない。お前は正しいほうに自分の力を使ったのだ、胸を張れ。」

雪佳とグレミーの言葉に美月はお礼の言葉も出なかった。気を緩めたら今にも泣きだしてしまいそうだった。
こんなにも迷惑をかけているのに、自分達が原因でひどい目にもあっているのに。
なぜこの兄妹はこんなにも優しい言葉をかけてくれるのだろう。
ここに来るとき、織佳からメールが届いていた。彼女もまた美月と同じ不安にかられていた。
この言葉を聞けばきっと織佳も安心する。早く伝えたくてたまらなかった。

「・・・なんだ、来てたのか。」

ふいに後ろから男の声がして振り向いた。声の主は桜井舞人だった。その後ろにはハルカ・アーミテージもいた。
舞人の手にはパンと飲み物が入った袋を下げていた。前に見たときと同じ黒いTシャツとジーンズ姿だ。
ハルカもブラウスにスカート姿とシンプルながらも派手さのない私服に着替えていた。
部屋に入りなり、美月の姿を見たとき舞人の表情が堅くなった。

「お前・・・なんでここに。」
「舞人、それ以上はだめよ。それを言ったらこの子達、居場所無くなっちゃうわ。」
「元よりこいつらにはないだろ。お前、そんな体になってんのにこいつら心配できる状態かよ。まだマヒもとれてねーんだから変に起きるなとあれほど・・・」
「・・・っ!」

その言葉を聞いた途端、美月は居ても立ってもいられず病室を飛び出していった。
離珠の合図を受けてスノがそのあとを追いかけていった。
静まる病室、気まずい雰囲気だけが部屋に漂っていた。

「あの子たちはあの子たちなりに責任を感じているのよ。大人の私達が守ってあげなくてどうするの。」
「俺はそれほど大人じゃない。お前がそんな状態になる原因を呼びこんだんだ。やるなら自分の庭でやるもんだろ、人んちでやることじゃない。」
「何をそんなに意固地になってるの?あなたらしくない。」

表面的な心の中だけでなく、その奥底にまで読まれているようで、舞人はますます居心地が悪くなってきた。
舞人自身も分かっている。原因は子供達ではない。むしろ送り込む事態にしてしまった大人達に原因がある。
未来の俺は何をしていたのだ。そう思うと腹が立って仕方無い。そして無責任にも八つ当たりしてしまった自身にも。

「すぐ近くの階段を下りた先に中庭がある。もし人気のないところへ行ったのならそこに行くだろう。」
「・・・悪ぃ。行ってくる。」

手に持っていた袋をベンチに放り投げ、足早に病室から出て行った。
その様子を見送りながら、雪佳は苦笑しながらため息をついた。

「素直になれない・・・お互い苦労していますね。」
「え、離珠にそんな人いるの?」
「こ・・・言葉のアヤというものです・・・!」

顔が少し赤くなった離珠は隣にいるグレミーに背を向けて、訳もなくあたりを片づけ始めた。
グレミーは涼しい笑みを浮かべている。

「あとはもう大丈夫だろう。離珠、私は先に一人で戻る。お前は雪佳のそばについてやれ。」
「しかし、この後のスケジュールは・・・」
「代わりを手配する。気にするな。・・・雪佳、しっかりと治すのだぞ。兄上もすみれも心配している。」
「うん、ありがとう兄様。すぐにでも退院してみせるから。」

ニッカリと笑って見せ、雪佳はグレミーの背に手を振った。









グレミーが話した通りにすぐ近くの階段を下りた先には小さな中庭があった。
中庭の真ん中にはベンチが2つ設置されていて、そのうちの片方に美月とスノが座っていた。
二人が何かを話しているのを見ながら、舞とは中庭の入り口の重いガラスの扉を開けた。

「・・・・!」

舞人の存在に気がついたスノが彼の方へ顔を向けると、その気配を感じた美月はうつむいた顔を舞人とは反対へやや背けた。
やはりさっきの言葉を気にしている。舞人の胸の中がぎゅっと握りしめられたような息苦しさが出てきた。
拳をやや強めに握り締め、舞人は一歩前に歩み出た。
スノは舞人と美月に挟まれるような感じで、二人の顔を交互にみながらどうすればいいのか迷っていた。
だが、彼女の混乱など気にする余裕もない舞人は思い浮かんできた言葉を頭の中で組みたてていき、一つ一つ絞り出すように話を切り出した。

「さっきは、無神経な事を言って悪かった。本気で言ったわけじゃないんだ。」

舞人の言葉に反応したのは、美月ではなくスノのほうだった。

「それじゃ・・・桜井様は軽い気持ちであのような事を言われたのですか。」
「軽い気持ち、というわけではないが・・・」
「それではどんな気持ちだったのでしょうか。自分の居場所がない辛さは私は痛いほどわかります。美月さんもそれは十分に分かっているんです。それなのに!」
「良いんです、スノさん。舞人さんの言う事ももっともだと思うんです。私達は少し周りの大人の人達に甘えてしまっていたのかもしれません。」
「・・・それは、悪い事なのか?」

舞人の顔がまっすぐ見られずに、スノと顔を合わせていた美月が視線を舞人に向ける。
その眼は少し大きく開かれているように見えた。

「舞人さんにとっては違うのですか?」
「正直わからない。俺は子供の時に母親を亡くした。だから誰かに甘えるというのは考えたこともなかった。何でも自分でやっていかなければならなかったからな。だが・・・・」
「・・・・だが?」
「お前は少なくとも俺とは違う。両親がいて仲間がいる。仲間を頼ることは甘えではないんじゃないか。」

舞人に目線を向けていた美月が自分のつま先に視点を落とした。
スノも彼女の表情が気になり、横からその顔色を見守っている。
きゅっと膝の上におかれていた拳が握られた。目線は下に向いたままだ。

「・・・力を貸して、ください。私はみんなが・・・母達が託してくれたモノに応えたい。私達の世界を壊したヴォルベオ達に一矢でも報いたい・・・!」

力強く握られた美月の手に、静かに小さな手が貸さなかった。
美月が横に顔を向けると、スノが肩が触れるくらいまで寄り添いながら優しく笑っていた。
その向こうでは舞人も、何も言葉にすることはなかったが黙って深く一度だけ頷いたのだった。


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