小説版 MSTSR

MSタクティクスSRにて連載中の短編小説。MSTコロニー中心とした様々な人々の物語。登場人物はすべてMSTSRにて登録されプレイする人が考えた己の分身キャラ。よって、原作のキャラと酷似していますが、ほぼ設定は異なっているという事をご了承ください。

最終章 第五十九話


スッ・・・とハプトペンターが左に流れた。
直後、弾丸がサイバスターの足に命中した。
続けざまに弾丸がサイバスターを狙って飛び交う。リロードになったのか、弾丸が止んだ。
しかし、間髪入れずにハプトペンターが大地を滑るように間合いを詰めてきた。地面を滑るのは脚部パーツがローラーダッシュに換装されているからだ。
立ち上がるサイバスターに向かい、ジャンプと同時に足を振り上げた。
足先の部分に取り付けられたビームナイフが展開し、サイバスターに襲いかかる。
ディスカッターで受け流し、何とか切り抜けたが、続けざまに繰り出される右腕のアッパー。
腕部にはジェットマグナムが装備されている。強力な電流とステークの一撃がサイバスターをかすめた。

「そこっ!」

ディスカッターの切っ先がハプトペンターの右脇を捉えようとした。
だが、ここで突然土煙りをあげて脚部のローラーが高回転した。アッパーの姿勢のまま急速後退する。
理由はすぐに分かった。サイバスターの右肩に弾丸が命中したからだ。怯んだ所を胸部に命中され、サイバスターは大きく地面に吹き飛ばされた。

「佳乃、避けろ!」

ポテトの声に、咄嗟に雪佳はレバーを手前に思い切り引いた、
翼から大出力の推進力と共に地面を滑っていく。と、同時に倒れた場所に向かってビームが命中した。
ハプトペンターの持つビームマシンガンが狙っていたのだ。
隙の無い波状攻撃はサイバスターと雪佳を苦しめる。このままではジリ貧だ。

「マスター、変形して先にうさ耳から狙いましょう。あのPTモドキ、重量からして長時間の飛行は不可能なはずです。」
「さすがピョン太ね。で、肝心のうさ耳の場所は?」
「ここから弾丸の流れから推測すると、北北東です。」
「レーダーにも入ってない上にあの命中精度・・・?とんでもないな・・・」
「今はピョン太の言葉を信じるしかない!サイバスター、チェンジ!サイバード!」

砂煙を巻き上げてサイバードは大空高くに舞い上がる。
あっという間にハプトペンターは豆粒のように小さくなった。
超高速の飛行で北北東へ飛び去ると、ハプトペンターも全速力で後を追いかけた。

「むぅ、あの兎のファミリア、侮れないわ。空中戦が苦手なことに気づいたよ。」

慧音は腕を組み直し、人差し指が忙しく彼女の二の腕をノックする。
性格上、一点突破型や局地特化型のような機体を考えることが多い。それ故に人型兵器を良く知る者にはその形状からタイプを知られやすい。
慧音自身の中ではその程度のことは想定内の事。如何にして相手の裏を書いて勝利するかがカギなのだ。

「戻りましたー。どうですか、戦闘の様子は?」
「おかえりなさいませ、美月様。雪佳様は初戦で一機撃墜しました。今、新型2機を相手に戦っている所です。」
「えっ、あの2機を同時に相手をしているの?慧音さん、無茶なことするなぁ・・・」
「そんなにあの2機は危険なんですか?!」
「危険じゃないけど・・・色々な武装を装備してるから、どこから攻撃を繰り出すか読みにくいの。実際シミュレートで動かす私も、全ての武装を使いこなせていないし。」
「そうなのですか。雪佳様勝てるのでしょうか・・・。」

不安そうにモニターを見つめるスノと美月。さすがに2機の新型相手では不敗と聞いた雪佳も苦しいのではないかと不安になる。
隣に立つ慧音は多少予測のずれがあるものの、想定内だと勝利を確信している。彼女のニヤつきがそれを物語っていた。

「いた!」

変形し、空中でラピッドイヤーの姿を確認する。
接近途中に弾丸を撃ち尽くしたのか、上空に停止してても攻撃してくる気配はない。

「先制攻撃!・・・ハイファミリア!」
「任せろ!」

呼び出された3機のハイファミリアは一気に降下してラピッドイヤーに突進する。その後にサイバスターも降下している。
ファミリア達を狙って、ビームが飛んできた。ビームライフルの射程に入ったのだ。
ファミリアのガトリングはシールドに命中。ビームを掻い潜りながら、モコモコのファミリアの体当たりがシールドを弾いてラピッドイヤーのバランスを崩させた。
ポテトとピョン太は左右から回り込むようにしてガトリングを放つが、機体を覆うマントがそれを軽減させる。
ラピッドイヤーは持っていたライフルを捨て、後退して体勢を整える。

「・・・ラピッドイヤーは狙撃だけが取り柄じゃない。」

ラピッドイヤーがマントを振りほどいた。隠れていた躯体の全容が現れる。
敵機頭上からその姿を捉えたピョン太が慌てたようにサイバスターに下に帰ってきた。
雪佳の肩の上に飛び乗り、自分の目で見た情報を彼女に伝える。

「あのうさ耳、スナイパータイプじゃありませんよ。」
「うん、あれでわかった。」

雪佳の視線の先、その先の光景にファミリア達も息を飲む。
サイバスターは今上空で留まっている。だが雪佳の視線は地上ではなく正面を向いていた。
ラピッドイヤーは飛んでいるのだ。その背中には輝く光の翼が広がっていたのだ。

「腰の装備を見てください。あれはF91やV2ガンダムにも装備されているヴェズバーです。」
「うーん、誤算だったね。」
「悠長なことを言ってる場合じゃないぜ!後ろ見てみろよ、もう追いついてきたぜ!?」

モコモコの言うとおり、地上では土煙を上げてハプトペンターが迫ってきた。
空と大地からの挟撃される形になったサイバスター。
先に仕掛けてきたのはラピッドイヤーだった。

「くぅっ!」

手首から射出されたビームサーベルを握り締め、光の剣がディスカッターとぶつかり合って火花を散らした。
ディスカッターがビームに焼き切られないよう、剣先には青白いオーラが膜のように張り付いて守っている。
光の翼の出力はサイバスターを押し下げ、地上へ地上へと突き返していく。

「佳乃、後ろ!」

背後には空高くジャンプしたハプトペンターが迫っていた。
振り上げた腕の先にはプラズマステーク。青白いプラズマが今か今かと、バチバチ音を立てて弾けていた。

「しまった!?」
「ご主人様、避けてください!!」
「頂きね。」

腕を組む慧音の右手が、脇腹で強く握りしめられた。
強烈な閃光と衝撃音が3機の機体の間で轟いた。衝撃で荒野に土煙が濃霧のように巻上がり機体を飲み込んだ。
スノと美月は息をのみ、慧音の右手はガッチリと握りしめられた。

「さすがサイバスターもプラズマステークの直撃を受けちゃひとたまりもないね。」

慧音は余裕の表情で計器に目線を落とす。一瞬にして彼女の期待は裏切られてしまった。
計器はまだ3機の機体が残存していることを確かに表示していたからだ。
見開かれた瞳がわずかに揺れた。

「見て!」

美月達は目を凝らし、ぬぐい去られた砂煙が完全に消え去るのを待つ。
3つの影が少しずつ露になっていく。サイバスターが生き残ったタネがようやく彼女たちの前で明らかとなった。

「まさか、二刀流!!」

きめ細やかな模様が刻まれている2本の剣。
サイバスターは2つの剣で2機の攻撃を防いでいたのだ。

「"バニティリッパー"を使わせたのはジノお兄様に続いてこれで2度目だよ。」
「なにそれずるい。」
「ディスカッターは魔法剣。これもディスカッターの別の姿なんだ。」
「ええい、やっておしまい!」

ラピッドイヤー、ハプトペンターは再び攻撃を開始する。
ビームサーベルとプラズマステークが前後、上下、左右と縦横無尽に襲いかかってくる。
サイバスターはバニティーリッパーを器用に使いこなし、同時攻撃を上手に払い落としていく。
だが、度重なる同時攻撃に少しずつだが確実にサイバスターの動きが鈍り、ジリジリと押されていく。

「佳乃!このままじゃやばい!」
「わかってるから!」

防御に意識が集中している為に、サイバスターはハイファミリアが使えない。
3匹からギャーギャーと騒がれて余計に集中しづらくなる。

「ハッ!」

目の前に迫るハプトペンター。咄嗟に大きく振った右腕。
鋼鉄の塊を切り裂いた感触はなく、勢いよくそれは空を滑った。
それに気がついた頃には、眼前の敵は姿勢を前のめりに崩れていく。
足元には割れた地面と突き出た岩。敵の足先は岩に接触していた。
ハプトペンターはサイバスターにしがみつく様にして体当たりしてきた。
倒れる、イコール、敗北。雪佳の脳裏に瞬間的に通り過ぎる。
スラスターを全力に引き上げ、敵ごと持ち上げて立ち上がろうとサイバスターは踏ん張り続けた。
だが雪佳が思った以上に高度が上がらない。ハプトペンターの重量が予想以上にあったのだ。
地上に倒れ、大地を何十メートルも滑る2機を上空から狙ったのはラピッドイヤーだ。
ハプトペンターが重量を武器に機体を押さえつけているためにサイバスターは反撃ができない。

「もうダメ、お願い!」
「やらせねぇ!!」

空へ突き出たサイバスターの右腕からモコモコのハイファミリアが飛びだした。
上空から迫るラピッドイヤーに向かって攻撃をするが、1機だけでは太刀打ちすらできない。

「うわあああっ!?」
「モコモコ!」

ラピッドイヤーの腕に振り払われ、ハイファミリアは地上に落下していく。
邪魔者が消えたラピッドイヤーがビームサーベルを構えてサイバスターを狙う。

「このーっ!!」

渾身の一閃がサイバスターから繰り出された。









最終章 宇宙西暦26年12月&44年5月 | コメント:0 | トラックバック:0 |

最終章 第五十八話




地球から少し離れたところに大きな岩の塊や、人工物が無尽蔵に漂うデブリ帯が存在する。
今までに漂流し増え続けてきた人工物が発するミノフスキー粒子は非常に濃く、さらに不発弾など危険なものも多く、滅多に人が寄り付かない死のエリアになっている。
そのデブリ帯の最たる奥に、一つの大きな影が姿を現した。
宇宙空間でありながらも岩や人工物を跳ね飛ばし、不発弾の爆発にも一切動じない巨大な影。それは大きな人工物だった。
ビルのように大きく、そして鏡のような表面は辺りの漂流物と宇宙空間を映し出し、よく目を凝らして近づかなければ気がつくこともできない。
その人工物の真下にある一部分が円形に開放される。光の中から飛び出してきたのはデスアーミー。
そう、この人工物はヴォルベオが使う巨大要塞だった。

「祢々、私に何の用だ?」

司令室の窓から基地の中をのぞき込むヴォルベオ。円を書くように回す右手にはグラスを持ち、グラスの中で青色の液体が揺れている。
彼の眼下にはグランドデビルガンダムの姿ある。機械作業と、DG細胞によって強制的に働かされている人間たちによって修理が施されていた。
確かに進化をしているデビルガンダムではあるが、今は有り余る進化の力を抑えきれず機能停止に陥っていた。
祢々はそれを見守る父の背を見つめながら、彼の質問に答える。

「お父様は私に何か隠し事をなさっていませんか。DGが、DGがヴィ・・・グランドガンダムを捕食し、異常なまでの進化をみせました。しかし進化のために捕食まですることを私は知らされていませんでした。」

握る手に薄く汗がにじみ出てくる。
父親の気に触れれば自分もどうなるかわからない。だがこの件だけはどうしても聞かずにはいられなかった。
自分もヴィラノスのように・・・。そう考えると不安でたまらなかった。

「あれは私にも誤算だったのだ。まさかDGがあそこまで進化に固執とは夢にも思わなんだ。」
「では、誤算だったのですね?」
「くどい。私とて過ちはある。そのための銀河の羅針盤だ。」

目線は変わらず基地内に向いたままで、祢々に振り向くことはなかった。
祢々は彼の背に目を向けて話を続ける。

「はい、完成を急がせます。」
「急ぎなさい。アレの確保もな・・・。」
「申し訳ありません。度々奴らの邪魔が入りまして・・・。」
「・・・お前には期待している。頼みましたよ。」
「はい。失礼致します。」

退室した祢々が去ると部屋はヴォルベオ一人だけになる。
グイっとグラスの一杯を飲み干し、彼はニヤリと口元に笑みを浮かべた。

「何も知らないことが幸であることもあるのだよ、祢々。・・・さて、時は少しずつこちらに流れている。あと一つ、あと一つの因子が手に入れば・・・私は銀河を手に入れられるのです・・・。クックック・・・」















ネオジオン アクシズ内部

「雪佳様、紅茶が入りました。」
「ありがとう、スノちゃん。いつも悪いわね。」

「とんでもございません」と弾んだ声で返しつつも、その手さばきは丁寧だ。
押してきたカートの上で、皿の上にティーカップを置き、薄くスライスしたレモンを添える。
雪佳は背もたれの持ちあがったリクライニングベッドに寄りかかりながら本に目を通していた。
昼食後のこの一時はスノにとって格別だった。憧れの先輩が敬う人物との会話。メイドになってから雪佳の話を離珠から聞いていたスノにとってはまるでTVの芸能人にでも会ったような高揚感がある。
午後は基本的に雪佳の身の回りの世話と警護を担っている。

「どうぞ。」
「いただくわ。いい香りね。」

皿を膝の上に乗せ、一口すすった雪佳はうっとりするように右手を頬に添えた。
その顔に一際高揚感が高まりつつ、静かにスノも着席する。
今日も風の心地よい春の気候。開かれた窓の白いカーテンが風に揺れている。

「今日はどんなお話をなさってくれるんですか?」
「そうね・・・また大昔の話になるけどいいかな。」
「はいっ!」

ここの毎日雪佳の病室に入り浸っているのは彼女の昔話を聞くことだ。
雪佳の中にある古の知識"星の記憶"。それを受け継ぐ翼人の能力により大昔の地球がまるで昨日の出来事のように思い浮かぶ。
自分の全く知らない世界の物語。でもそれは自分も良く知っている地球の物語。
近いようで限りなく遠い異国の話がスノの好奇心を必要以上にかきたてた。

「それで、その方はどうなったんですか?」
「師と仲間を信じて彼は戦い続け、多くの戦いを生き残った。彼はいつしか英雄と呼ばれるようになったの。」
「英雄・・・。」
「肩書なんて意味ないよ。彼もその言葉を重荷に感じていたみたいだし。私だって・・・」
「(あっ、雪佳様も翼人ということを重く受け止めて・・・)」

自分の言葉に小さくなってしまったスノの姿を見て、雪佳は言葉を切り替えた。

「辛いこともあるけど、この力のおかげでたくさんの人を助けることもできたし。お話の彼よりかは気分は楽ね。」

その言葉でスノの表情が少しやわらかくなり、雪佳も一安心した。
そこにノックと共に扉を開けて中に人が入ってきた。
入ってきた人物を見て、スノは慌てて立ちあがった。

「アオイ様!」
「雪佳様、失礼します!こんにちわ、スノちゃん。」
「久しぶり〜、アオイ!どうしたの?」
「はい。本日1300より雪佳様に退院の許可が決定しました。」
「やった!ようやくかー。長かったわぁ。」
「何言ってるんですか。あの状態を数日で治してしまう雪佳様の体力がすごすぎるんですよ。」
「なぁにぃ?私が体力バカとでもいいたいわけぇ??」
「だ、誰もそんなこと言ってないじゃないですか!」
「どうせ私は筋肉モリモリ、マッチョマンの健康馬鹿ですよぉ・・・」
「うわーこのひとめんどくせー」

退院の報せで部屋の中がわっと笑いで溢れた。スノも久しぶりに心から笑えたような気がした。
その後、すぐに身支度を終えた雪佳はスノと共に月へ向かう事になる。
月では今グレミーと離珠が対ヴォルベオのための策を練っている最中だからだ。それに会いたい人たちもいる。
外部との連絡がほとんど断たれていた雪佳にとってTVや新聞の内容は新鮮な物ばかりだった。
特に数日前に起こったオーストラリアでの出来事だ。これはスノから大まかなことを聞いていた。
自分の子供達が前線で戦い戦果をあげた。そして敵の幹部の一人を恵が倒したという事。親からすれば嬉し半分、心配も同じくらい大きい。
新聞は当たり障りの無い程度の政府発表の内容と、多大な被害を出した政府を批判する内容を書き連ねているだけだ。
戦闘の内容も苛烈を極めたとしか書かれていないが、それ以上に最近世界を震撼させ続ける極悪テロリストを一掃したことを大々的に報じている。
いつの時代でも情報操作はあるものだ。嘘も方便ともいうがやはり人をだますのはあまり好ましくない。

「気になりますか?」
「うん。お兄様からは連絡受けてるけど、やっぱ心配。恵なんて戦闘終了後から眠りっぱなしらしいし。」
「恵様が!?大丈夫なのですか?」
「たぶん過労だよ。無茶に中途半端なポゼッション(精霊憑依)をするものだから、プラーナ(気)を使いすぎたのよ。お兄様は昔の私を知ってるからすぐに対応してくれたみたい。」
「よかった・・・。」
「でも心配事は消えてないの。今回はこれで済んだからよかったけど、次にまた同じようなことをしてプラーナを消費し続けたら命にかかわることが起こるかもしれない。しっかり精霊と向き合わないと・・・」

不安の残したまま、二人を乗せたシャトルは月へと降下を始めた。グレミーとの予定より結構早い到着だ。
月のフォンブラウンに降りた二人はグレミー達よりも前に真っ直ぐにあるところへ向かった。
そこはネオジオンが管轄する人型兵器保管庫。アナハイムやサナリィなど大小様々な企業と共にMSの開発も行っている。
雪佳の目的は場所ではなく中にいる人間に会いに来たのだ。

「ここだね。」

二人が到着したのは施設内の研究室だった。
中に入ると松葉杖を使う見慣れた人物がコーヒー片手に机に並べられた資料を見ていた。

「おや、退院おめでとうか?今日はスノも一緒なんだな。」
「こんにちわ。今日は雪佳様の護衛でやって参りました。慧音様。」
「まぁ座りなよ、コーヒーくらいしかないが。」
「あ、手伝います。」
「あれ、美月は?」

コーヒーメーカーで二人分のコーヒーを作りながら、慧音とスノは資料を片づけている。
慧音は月面都市襲撃後からずっと美月と二人でHi−νガンダムのカスタム化を進めていた。
早急に自分の考案したプランを完成させなければならないとグレミーに直談判の末、たまたま破棄直前の研究所を手に入れたのである。
さらに雪佳がここに立ち寄った理由はサイバスターの点検を事前に慧音に頼んでいたからだ。

「あぁ、美月はあそこだよ。」

彼女は研究室の窓に指をさした。強化ガラス窓の向こうでは巨大な施設が広がっている。
慧音のMS"Hi−νガンダム"が見えるところからして、個人の研究施設のようだ。隣にはサイバスターもある。
そのHi−νの足元に見慣れない球体がある。慧音が示したのはそれだった。

「何あれ?」
「コクピット。新型サイコミュの調整がまだ終わらなくて、コクピットは取り変えてないんだ。中で美月がサイコミュの調整をしてる。」
「そう。で、サイバスターは?」
「万全。あとはパイロット次第ね?」
「ムッ・・・それじゃ問題はないね。あ、美月出てきたね。」

コクピットが開き、中から人影が現れた。
サイコミュ用の変わった形のヘルメットを取ると、水晶のように細かい汗が空に舞った。
ふぅっと息をついた美月に、マイクで慧音が声をかけた。

「お疲れさん。休憩しよう、客人も来ている。」

雪佳達の手元にコーヒーが届く頃、部屋にやってきた美月が驚いたように声を上げる。

「あっ、雪佳さんにスノさん。いらしてたんですね。」
「元気そうでなにより。恵みたちの話は聞いた?」
「はい、大きな戦いだったと慧音さんやお母さんから聞きました。」
「そう。あれから特に月に何か来たりはしてない?」
「至って平和。私のHi−νに恐れをなしているとしか思えないわね!」
「フーン。」
「ひどいリアクションだな。」
「プランの方は順調なんでしょ?じゃあ、リハビリに手合わせ願おうかしら・・・」
「私のHi−νをリハビリに使うとかどうかしてるわ・・・。見事に返り討ちね。」

二人の会話を聞いていた美月は自分が出ないといけないのではとドキドキして座っていた。
スノが気にかけて静かに声をかけたが、美月は大丈夫と笑っていた。

「大丈夫よ。私の相手はAIにやらせるから。美月はシャワーでも浴びておいで。汗びっしょりだもの。」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて行かせてもらいます。」

申し訳なさそうに美月は部屋を退室してシャワールームへと小走りで向かっていった。
残された3人はシミュレーターを起動し、サイバスターと接続させる為に倉庫へ向かう。

「久しぶりね、サイバスター。元気にしてた?」

リフトからサイバスターのコクピット前に移動しながら雪佳はつぶやいた。
久しぶりに会うサイバスターの表面はスベスベして冷たかった。懐かしい感触だった。
ただ、シミュレーターとの接続の為にコクピット周囲のボディにはたくさんのコードが繋がれちょっと可哀そうに思う。
コクピットに乗り込み、起動させる。聞きなれた起動音が響くと、背後に温かい気配を感じた。この感覚は風の精霊サイフィスだ。
久しぶりに会えたことに風の精霊も喜んでいるようだ。心地よい風がコクピットに軽く吹いてまわり、頬と髪を撫でる。
それを感じ取ったのか、雪佳の背後からファミリア達が飛びだした。
ただの白い毛玉のように見えるが犬のポテト。炎のように赤とオレンジの毛並みが美しいネズミのモコモコ。見た目は兎だが知性的なピョン太。
久しぶりに飛び出した3匹は漫才のようにトークを展開し始める。

「サイバスター、久しいぜ!」
「お久しぶりでございます、サイフィス様。」
「俺達ファミリアも久しぶりの全員出演だね。読者の皆様、お久しぶりです。」
「何言ってるんだ、ポテト?」
「あぁ、いや!ただの独り言だよ!?」
「よし、起動完了。雪佳?シミュレーターと接続するから、準備よろしく。」

コクピットを閉じると景色が一変する。あっという間に宇宙空間だ。
久しぶりのシミュレーションに雪佳はワクワクする高揚感が高まっていくのを感じた。

「準備はいい?」
「いつでも。」
「雪佳様、あまりご無理はなさらないようにしてくださいね。」

モニターの隅でスノが心配そうにカメラを覗き込んでいた。
大丈夫、と手をひらひらとさせて雪佳は気楽に答えた。

「相手は私のHi−ν。換装に応じて戦場が変わるから注意してね。」
「OK。そっちも戦闘データちゃんとしっかり取るんだよ。」
「40の計器がこれからの戦いのデータを取り込むから、思いっきりやってくれたほうが嬉しいな。・・・スタート!」

慧音がボタンを押すと、雪佳の目の前にHi−νガンダムが現れた。
宇宙用装備の天命型だ。たくさんのスラスターから織成す運動性能と一撃必殺の高火力には注意しなければならない。

「はやっ!?」

パッと消えるようにHi−νが上昇した。ものすごい加速だ。
だがスピード勝負なら雪佳も自信がある。
目標を追いかけて、フルスピードで追跡した。
高速で空間を跳び回る2機。光の軌跡が編み込まれる糸のように絡み合い続ける。

「そこ!ディスカッター!」

抜刀したサイバスターが構えを取る。Hi−νを射程に捉えた。
Hi−νはこの時を待っていた。近接武器で間合いを詰めてきたのを狙い、振り返りざまにオンバシラを射出した。
軌道をずらしながらオンバシラのビーム砲がサイバスターの肩をかすめた。
ビーム砲が当たらないと考えた次は、拡散型に変えてビームを放つ。これにはさすがのサイバスターも減速して避けなければならなかった。
サイバスターが怯んだ隙に大きく旋回し、Hi−νは大型シールドからクサナギを引き抜いた。
自身と同じくらいの大剣の先にエネルギーが集中する。スピードを維持したまま剣を水平に構えた。
スピードに乗った一撃に当たれば並みの兵器なら一撃で沈んでしまうだろう。

「あぁっ!?」

サイバスターはディスカッターを構えて守りに入ったが、逆に力を完全に受け流すことが出来ず、大きく弾き飛ばされてしまった。
雪佳の視界が縦横無尽に振り回される。すぐに姿勢を立て直し、接近するHi−νに照準を合わせる。
Hi−νは再びスピードを活かした接近戦に持ち込もうとしている。サイバスターは左腕をまっすぐにつきだした。

「ギリギリまで引きつけて・・・行くよ、アァァカシックバスタァァァッ!」

左腕の先に現れた紋章をディスカッターで貫いた。
紋章から真っ赤な炎の鳥が姿を現した。炎の鳥は大きく羽ばたきながらHi−νに向かって真っすぐ進んでいく。
サイバスターはすぐに飛行形態のサイバードに変形し、炎の鳥に重なる様に同化した。
Hi−νはオンバシラで集中攻撃をしかけた。だがビームは命中してもサイバードが纏うオーラを弾くことが出来ない。
高いエネルギーを維持しながらサイバードのアカシックバスターがHi−νと正面からぶつかり合った。

「貫けェェェッ!」

強烈な閃光が生まれ、思わずモニターで見ていたスノは手で光を遮ってしまう。
ふと横を見ると、いつの間にかサングラスを見に付けていた慧音の姿が見えた。用意周到とはこのことか。
手元に持った資料を手に、戦闘データを手書きでメモのように書き込んでいく。
横からこっそり覗くと、メモと思えないくらいびっしりと考案や新しい提案などが書き込まれている。ペン先の速さも尋常じゃない。

「・・・さすがに天命じゃ荷が重いか。・・・改良の余地ありっと・・・ここはこうするべきか。・・・・次、アレを試してみるか。コレ、そこに差し込んで。」
「あっ!は、はい!」

ポケットからおもむろに出した小型ディスク。手のひらに収まる程度の大きさしかないが、これ一つでパソコン数台分のデータを詰め込むことができる。
言われたとおりにディスクをセットすると、慧音は片手でキーボードを叩いた。スノにはまるで指先がキーボード上で軽やかなステップを踏んでいるように見えた。

「次は特化型2機を相手にしてもらう。1対1にしておくか?」
「まさか、2機同時で。」
「だろうと思ったよ。いくぜ。」

タンッ!と力強くエンターキーが叩き込まれる。
その瞬間、雪佳の全身に重みがかかった。重力だ。景色も暗黒の宇宙から明るい荒野へと変わっていた。
空っ風が寂しく機体に吹きかけている。辺りを見回すが、HI−νの姿は見えない。
ふと、機体を後ろに向けた途端、肩に衝撃が走り機体が吹き飛ばされた。明らかな攻撃だ。

「!?・・・どこから!?」
「佳乃、機体を伏せさせないと!」

ファミリア達がコクピット内で慌てふためく。
ポテトに言われた通りに機体を伏せ、攻撃を受けた方向を見るが、影も形も見えない。レーダーにも映っていないし、ファミリアも何も感じない。超長距離からの狙撃とでも言うのか。

「うわっ!?」
「これはやべぇ!」

今度は外れたが、目の前で弾丸が地面に命中した。地面が大きくえぐれるほどの威力だ。動力系や駆動系に直撃したらひとたまりもない。

「ご主人様、あの岩に身を隠しましょう!」

サイバスターは飛び上がる様に大きな岩に身を隠した。ここからなら大丈夫だ。そう思っていた。

「おい、上だ!」
「危ない!!」

岩が砕かれると同時に飛びこむように前転して奇襲を回避した。
今度は狙撃ではなかった。眼前の機影がそれを物語る。

「あれは何だ!?」
「俺達が相手をしてるのは、ガンダム・・・だよな?」
「けど、あのシルエットはPT(パーソナルトルーパー)よ?」
「ご主人様、躯体のデータから確かにHi−νガンダムです。武装、推進装置の形から推測するに、地上用に特化した格闘専用機体です。」
『さすがのファミリアね。少量のデータだけでそこまで推測できるなんて。私の助手にならない?』

嬉しそうに慧音がサイバスターへ通信を送ってくる。
ピョン太はプルプルと頭を横に振っている。

「もう気付いたでしょうけど、Hi−νテンメイの新型2機よ、目の前にいるのはPTタイプの通称ハプトペンター、もう一機はハプトペンター(独語:司令塔の意)、頭部横のうさ耳アンテナ可愛いでしょ。一応人間が乗ってる想定で動かすから動きに限界があるけど、それでもいい動きはしてくれるはずだ。楽しんでいってね。」
「面白い。やりましょ。」
「佳乃、病み上がりなんだから無理しすぎないようにな。」
「ポテトに言われなくても分かってるよ。でもこんなにワクワクするなんて久しぶりよ。」
「ポテトや、諦めろい。こうなっちまったら、誰も主人を止めらんねぇぜ。」
「ご主人様、来ます!」






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最終章 第五十七話



「・・・・・ぅぉぉぉぉおおおおおオオオオッッッ!!!」
「ナニィッ!!?」

恵の視界に空がよみがえった。眩しさに少し目がくらんだ。
迫り来る巨大な足は消え、大空には一つの影が太陽の光で輝いていた。

「あれは・・・・」
「∞(インフィニット)ジャスティス!」

澄み渡る大空に舞う、深紅の機体。
シールドとビームサーベルを構え、∞ジャスティスは倒れ込むグランドガンダム改を見下ろしていた。

『・・・無事か?』

通信器から聞こえる若き父親の声。
気にかけているというにはたった一言しかなかったが、恵には十分すぎる言葉だった。

「あぁ、大丈夫だよ。」
『援護する。トドメはお前がさせ。』
「うん!」

ゆっくりと立ち上がるグランヴェール。グランドガンダム改も体勢を立て直し、こちらに睨みをきかせている。
突然の敵の増援と襲撃に仕掛けるタイミングを探っているようだ。

「ジャスティス・・・桜井舞人、貴様までもがやっテくるとはナ。」
「大気圏で俺を潰そうって魂胆だったんだろうが、作戦は失敗したぞ。」
「フン、元よりアの野郎(シフティ)には期待ナどしていなイ。俺様の手柄ガまた一つ増えタだけだー!」

スタンディングモードからアタックモードに変形、再び厚い砲撃を始めてくる。
ふわりと舞うように∞ジャスティスが飛び上がった。砲弾はまるで避けているかと思えるくらい∞ジャスティスにはかすりもしない。
グランヴェールは土煙と瓦礫を利用して間合いを詰める。

「っ・・・!」

舞人は迷うことなく引き金を引いた。
肩に命中させ、重心を崩したところで足元を撃ち抜いた。
脆くなった地面に動きが鈍り、小さいながら隙ができていく。

「効かヌ!」
「でぇい!!」

岩陰から接近していたグランヴェールが飛び上がり、暴れ狂う砲台を叩き落とした。

「チョコマカと!」
「よし、いけるぞ!・・・な、なんだッ!?」

間合いを取って身を隠したグランヴェールに突然の揺れが襲った。
計器をみるが、機体が故障したり、機体そのものが揺れているわけではない。
地震が起きているのだ。

「恵!そこから離れろ!」
「よそ見している暇などあるのか!?」

エヴァンジェリンと上空で戦い続けている祢々。執拗に追いかけ、アンジュルグを援護に向かわせない。
マスターガンダムも地面からゾンビのように現れるデスアーミーの攻撃に前にも後ろにもいけない状況が続いていた。
地震が一際大きくなった時、グランヴェールは地中から何かが迫ってくるのを感知して警告を鳴らした。
慌てて大きく飛び上がると、大地が盛り上がり、大きな影が飛び出すように地面から這い出してきたのだ。
巨大な胴体と見覚えのあるシルエット。その姿を見たものはすぐにシルエットの正体に気がついた。

「見ろ、デビルガンダムだぞ!」

引き寄せられるかのようにグランドガンダム改の近くに現れたグランドデビルガンダム。
基地で蓄えたエネルギーのおかげなのか、大きく破損していたところは再生していて目立った外傷が見えなくなった。
しかし、ところどころの装甲が以前と形が異なっているところを見ると、それなりのダメージはまだ残っているようだ。

「デビルガンダムがここに現れたということは・・・」

敵から少し距離をとった恵の予想は的中した。
自分の右舷で同じくらい離れた距離に光の柱が現れた。その光の柱を生み出しているモノの招待を彼は分かっていた。

『トァッ!』

地面から伸びる柱から現れたのは、グランドデビルガンダムを追いかけて地中へ潜っていったマイトガインだった。
彼の方は多少躯体に泥がかかっているものの、大きな損傷は出ていないようだった。

「マイトガイン!」
「あれが・・・」

舞人は初めて間近で見るマイトガインの姿を上空から眺めていた。
デビルガンダムのコアを狙う謎のスーパーロボット。
偶然なのか自分の名前が入っているロボットに不思議と親近感が湧いた。

「マイトガイン、大丈夫か!」
『大丈夫だ、ジノ=マクレガー。地下だと思うように奴にダメージを与えることができなかった。・・・む?あれは、ジャスティスガンダム・・・。』

上空に浮かぶ∞ジャスティスの姿を見たマイトガインは何か感慨深しげにそれを見つめていた。
機体ではなくその中のパイロットに、だ。
マイトガインのメモリーの中で末来世界の主人の姿が蘇る。

『(・・・桜井舞人・・・外宇宙から飛ばされた私を発見し、修復をしてくれた男。この時代から数年後に私が来るのだな・・・)』

マイトガイン自身には自分が修復される前のメモリーはほとんど残されていなかった。
ただ、断片的に自分が別の宇宙から跳んできたことだけは覚えていた。
外宇宙からこの世界に来た理由、跳躍の方法は・・・データには残っていなかった。

大気圏突入後、地上に叩きつけられ至るところが破損していた躯体を発見し、修理してくれたのが桜井舞人だった。
幸い自立型CPUや人工頭脳回路が生きていたため、会話には不自由することはなく、自分が覚えている限りのことを話した。
名前がガインだということ、戦闘とレスキューを兼ねた作戦のために作られたということ、そのための補助パーツも自分が落ちた所の周囲に落下しているということ・・・
そして強くデータの中に残っていたのは「これから現れる巨悪と戦い、勝利すること」だった。
人間でいえば本当に記憶喪失といえる状況で、ひどく落ち込んでいた自分をここまで立ち直らせてくれたのはあの男のおかげだ。
数々の補助パーツも探索し、マイトガインという新しい名前もくれた。不思議とその名前には違和感はなく、むしろ生まれたころからずっと呼ばれている自分の名前のような錯覚を起こした。
そしてそれ以上に彼への厚い恩義を今でも確かに抱いている。

彼の末来を守るために、そして彼の家族を助けるために。
それが彼への唯一の恩返しであり、巨悪を倒すという自分の使命でもある。
きっと自分はこの時のために送り込まれたに違いないと確信していた。

『銀の翼に望みを乗せて・・・灯せ平和の青信号・・・・勇者特急マイトガイン、定刻通りに只今到着ッ!!』
「グヌゥ!あのロボットまでもガ戻ってくるとハ・・・!」
『来い、デビルガンダム!俺が相手だ!』

現れたグランドデビルガンダムの前に、再び人類のために立ち上がるマイトガイン。
構えた動輪剣と悪を許さぬガインの正義の怒りが巨悪に突きつけられた。

「フンッ、タった一機でグランドデビルガンダムを相手にすルとは!」
『俺は例え最後の一人になろうとも、最後まで未来のために戦い続ける!それが私の使命であり、私を助けてくれた舞人への恩返しでもあるのだ!』
「(俺?ってことは、末来の俺への、恩返しってことなのか。)」

マイトガインが先制を取った。大地を砕きながら大きく跳躍した。剣先が太陽で輝き、マイトガインに光が降り注ぐ。
この重い一撃なら、大きなダメージを負わせることができるはずだ。
奴の動きは鈍い。いける!
動輪剣の切っ先がグランドデビルガンダムの右肩を捉えた。高い金属音と同時にバックリと肩の装甲が切り裂かれた。
だがそこは敵も行動が早かった。間合いに入り込んできた敵に向かい、背部に生えるガンダムヘッドの火炎放射と体当たりが襲ってきた。
炎の避けたものの、ガンダムヘッドの体当たりが命中する。マイトガインの視界にチリッと一瞬だけノイズが走る。

「マイトガイン!」
「おい、貴様らの相手ハこの俺ダぞ?」
「どけッ!」

立ちふさがるヴィラノスにビームが命中した。
見上げればビームライフルを構える∞ジャスティスの姿がある。

「再生する前に破壊してやる。いくぞ!」

舞人はスロットルを押し出し、ペダルを踏み込んだ。
機体がグンと傾き、敵に向かって急降下していく。一瞬で縮まる間合いで舞人は慣れた動きで機体を操り、グランドガンダム改を翻弄する。
パワーでは圧倒的に敵が有利ではあるが、スピードでは負けていない。
あの堅い装甲を撃ち抜き、集中砲火で叩き潰さなければ。
それは息子の恵も考えていたことで、父の動きから自分の考えが同じであることをすぐに感じ取った。
まずは再生が収まりきらないくらいのダメージを負わせることだ。

「フレイムカッター!」

グランヴェールの炎の剣が三度グランドガンダムの脚部装甲を焦がし、斬り裂いた。
損傷個所は再生に時間がかかるほど黒くコゲついた。さらに弱体した装甲をピンポイントでビームライフルが命中し爆発する。
二人の息の合う連携攻撃にヴィラノスは面食らった。∞ジャスティスの隙を狙えば足元からグランヴェールが、グランヴェールを狙えば上空から∞ジャスティスが・・・・
過去と未来という時間が二人を隔てていても、その息の合ったコンビネーションは親子の繋がりを感じさせるものに見えた。

「なんダ!?何故、こんナ・・・!修復が追いつカない!!」
「恵、奴の動きが鈍っている、チャンスだ!・・・お前がやるんだ!」
「お、俺が?」
「そうだ、お前の手で決着をつけろ!これはお前の戦いなんだぞ!」

恵は返事こそしなかったが、心の中で父への心の壁が崩れるのと同時に父への何とも言えない感謝、嬉しさの気持ちが湧き出ていた。
今自分は亡き父と共に戦っている。自分に与えられたチャンス、期待に応えたい。
恵の手にぐっと力がこもった。

「行くぜ!」

連続で叩きこまれたダメージで、脚部の再生が追いつかず動きが鈍っている。
ヴィラノスは予想以上の連続攻撃にもはや正常な判断ができないほど混乱していた。
怒りで計器を叩きつけ、ガチャガチャとコントロールをいじくりまわしていた。

「クソ!クソ!クソォッ!人間風情ガ!この俺様をこんな目に!グオォッ!?」

グランドガンダム改が∞ジャスティスを捉えた時、眼前にファトゥムー01が迫っていた。
重い衝撃と共に機体とヴィラノスの見る景色が傾いた。
ファトゥムー01はグランドガンダム改のどてっ腹に突き刺さり、突き破ろうとブースターの炎を噴き出しながらグイグイ押し込み続けている。
さらには堅い装甲が仇となり、貫通せずに突き刺さったまま、ファトゥムー01からのハイパーフォルテスをゼロ距離で受け続けている。

「消えてなくなれ、ヴィラノス!これは・・・この時代で死んでいった人たちの恨みだッ!」

怒りと正義の炎がフレイムカッターに宿る。
行動不能に陥ったグランドガンダム改の頭上に飛び上がり、剣先を上から下に向けた。
柄をしっかりと両手でもち、まっすぐコクピットに炎の刃を突きつけた。

「畜生ッ!チクショオオオオォォォッッ・・・・!!」

空中から降下し、重量を全て剣先に乗せ、フレイムカッターがグランドガンダム改の胸部を、コクピットを貫いた。
灼熱の炎に貫かれ、ヴィラノスは断末魔の咆哮を上げた。
刀身を抜き、グランヴェールがグランドガンダム改から飛び降りると、グランドガンダムは地響きと土煙を上げながら倒れた。
幸い爆発はせず、周囲には金属が溶けた臭いが立ち込めていた。

「みんな、俺・・・やったよ・・・!」

もうピクリとも動かないグランドガンダム改の姿を見つめながら、恵は目頭が熱くなるような感覚になった。
未来から続いた敵の一人を倒した。一人ではあるが、これは自分たちにとって非常に大きな意味を持ち、大きな一歩でもあった。
反撃の狼煙は今この瞬間から立ち上ったのだ。




『舞人、恵、気をつけろ!』
「えっ?」

マイトガインの声に我に帰った恵は、目の前を通り過ぎた長い影に思わず引き下がる。
影の正体はガンダムヘッドだ。グランドガンダム改の辺りから地面を突き上げるように次々と地中から地表へ現れていた。
そしてそのガンダムヘッドが群がるところにグランドデビルガンダムも猛然と突き進んでいった。

「奴め、一体何をするつもりだ!ガイン、舞人、奴を止めろ!」
「合点!」

全てのデスアーミーを蹴散らしたマスターガンダムが走り出すが、到底間に合う距離ではない。
近くにいた∞ジャスティスとマイトガインがグランドデビルガンダムの前に立ちふさがる。
『奴は何か考えがあってグランドガンダム改のところへ向かっているはずだ!』

マイトガインが正面からグランドデビルガンダムにぶつかっていった。
出力を最大にまで上げて全力で押し返そうと試みる。
背後からのビームライフルの攻撃は無尽蔵に生えてくるガンダムヘッドが囮となり、本体への直接攻撃ができない。
さすがのマイトガインも猛烈な速度で突進し、かつ自分よりも質量の多いものを止めることは不可能だった。
ましてやファトゥムを失っている∞ジャスティスなど以ての外だ。
2機の猛攻で一度は減速させたものの、完全に勢いを止めることはできず、マイトガインですら跳ね飛ばされてしまった。

「こいつ・・・!」

グランドデビルガンダムの前にマイトガイン、∞ジャスティス、グランヴェール、マスターガンダムが立ちはだかった。
敵の足元にはもう二度と立ち上がることのないグランドガンダム改がある。
今までにない威圧感がグランドデビルガンダムから満ち溢れ、4機は敵を前に動けずにいた。
グランドデビルガンダムの行動はもはや予測不可能であった。
その姿に祢々も剣を下げ、その様子をうかがい始めた。

「(あのような行動を父様からは聞かされていない。奴に何のプログラムがかかったんだ・・・?)」

戦場にいるもの全てがグランドデビルガンダムに釘付けになっていた。
そして、ついに奴は行動を開始した。

「な、なにっ!?」

グランドガンダム改の周りを蠢いていたガンダムヘッドが突然グランドガンダム改に群がりはじめたのだ。
死んだ動物に群がるハイエナの如く、その鋭い牙と強靭な顎で機体に噛みつき始めたのだ。

「グランドガンダムを・・・・喰ってやがる。」
『どういうことだ!』

異常とも言える自体に戸惑うジノ達だが、そのグランドデビルガンダムを従えていた祢々もまた食い入るようにそれを見つめていた。
祢々の様子に何かを感じ取ったのか、エヴァンジェリンが鋭く言ってみた。

「・・・お前もあれが何なのかわからんのだな?」

祢々はしばらくその言葉に何の反応も示さなかった。
だが、機体は完全に武器を下ろし、隙だらけの無抵抗状態だ。

「(デビルガンダムがあのような行動を取るなんて聞いていない・・・父様は私達に隠していたというのか?私達の最期は奴の部品にでもなれとでも?!)」

父、ヴォルベオから絶対の信頼を置かれていると信じてきた祢々の中に、小さな小さな、花のつぼみのような。疑心の念が芽生え始める。
あの機能おそらく自己増殖と自己進化から生まれているものだろうが、それが捕食活動にまで発展しているのは異常な進化だ。
自分の考えの範囲を超えた進化をあの悪魔は備えていることを改めて見せつけられた。

「(祢々の反応、どうやら図星らしいな。)」
「おい、何か始まったぞ!」

ジノの声に再び戦場にいる面々の視線がグランドデビルガンダムに集中した。
グランドガンダムだった残骸を食べ終えた悪魔はガクガクと体を震わせ、大きく体を揺らし始める。
装甲が盛り上がり、まるで中に芋虫でも這いずりまわっているような不気味な様子だ。

「こいつ何をおっぱじめるつもりなんだ・・・」
「まるで昆虫が脱皮しているみたいだな。」

不気味さに一歩後ずさるジノに対して、冷静にエヴァンジェリンが返す。
確かに異様な様子だが、魔界にいるワーム共に比べれば大したことはない。
MSの何倍もある芋虫や百足が今のグランドデビルガンダムと同じように蠢き脱皮する。
その言葉に形容できない異様さを垣間見たとき、エヴァンジェリンですら2〜3日食事が喉を通らなかったほどだ。
幸いグランドデビルガンダムは機械だ。そう自分で理解している分、他の連中よりかはいくらか冷静でいられた。

「自己進化、か。奴の進化は無限大とでもいうのか。」

大きな音と共に、グランドデビルガンダムの背中の装甲が弾け、その中から2本の大きな腕が姿を現した。
そのアームの指と爪は太くて鋭く、MSなど簡単に胴体からつかみあげて握りつぶしてしまいそうだ。
胴体もグングン大きくなり、胴体の長さも変わっている。全体的に一回り大きくなっていた。
だが、その時突然異変が起こった。

「おい、見ろ!」

グランドデビルガンダムの進化が止まった。いや、止まったというよりかは強制的に停止したと言う方が正しいか。
装甲を突き破り、進化を続けていた悪魔は体を震わせ、今度はもがくように体をひねり始める。
それはまるで苦しみに悶え狂っているようだ。

「マスター、DG細胞の活性化が異常な数値を出しています。」
「進化の果てにあるのは死。奴の進化に限界がきたのかもしれない。」
「(ここが引き際か・・・!)」
「ッ?!待て!」

アンジュルグが弓を構える前にヴァイサーガは異空間の歪みの中に消えた。
それとほぼ同時に、グランドデビルガンダムの頭上に同じような巨大な歪みが姿を現した。
次元システムを使った空間転移だ。下手に亜空間に引き込まれれば非常に危険だ。
ジノ達は手を出すこともできず、ただその様子を見ていることしかできなかった。
恵はそれでも構わずパルスレーザーを撃ちこんだが、亜空間の歪みに吸い込まれ消え失せた。
恵は思わず計器に拳を叩きつけた。









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最終章 第五十六話



連合軍の作戦は敵の罠に掛かり甚大な被害を被るという最悪の結末となった。
司令部は言葉を失い、また兵士たちも士気はなく満身創痍になっていた。
そして彼らもまた例外ではない。

「みんな、死んじゃった・・・私たちを助けようとして。」
「さっきの、さっき居た人は!バーザムの人達だよ!」
「恵様、我々と共に脱出してきた期待の中にバーザムは存在していません。おそらく・・・」

恵と織佳はその言葉に言葉が詰まった。存在していない。つまりあの基地に取り残されていたということ。
それは二人に死というものを感じさせるには十分すぎるものだった。
織佳は声を殺して泣いた。悲しみが彼女を取り囲んで覆いかぶさる。
自分達のせいで死んだのだ。彼らには家族がいたはず。守るべき人がいたはずなのに。
もう消えてしまいたかった。こんなことになるのなら末来で自分達が死ねばよかったのに。
恵は逆にどこにぶつけていいかわからない怒りに満ちていた。
血がにじみ出るかもしれないほど強く拳を握りしめ、自分の弱さを嘆き憤怒する。
もっと力があれば、自分達にもっと力があれば・・・。そして、こんな作戦を思いついた敵を心の底から憎んだ。

大人達は声もかけられず、残存する機体を集結させることを優先させた。
彼ら兵士もまた仲間を失ったことの悲しみや怒り、そして敵への絶望感が広がっていた。

「くそ、俺がもっとしっかりしていれば・・・!」

ジノが口惜しくその言葉を絞り出したとき、茶々丸がひと際大きく声を出した。

「空間の振動をキャッチしました!何者かが空間転移してきます!!」
「なんだと!?」

茶々丸の言った通りに大気が震えた。
空に渦巻きのような暗黒の大穴が口を開いた。
そして、どこからともなく地鳴りのような低い笑い声が戦場にこだまし始めた。

「ヌーッハッハッハ!まんまと罠にかかりヤガッて、馬鹿な奴らダ!」
「あれは・・・!それにあの下品な笑い声!」
「ヴィラノスのグランドガンダム!」
「いやジノ、あれも見てみろ。」
「あの女か・・・」

空間転移で現れた敵の増援。巨大な影で大地を揺らしたのはグランドガンダムとその配下である多数のデスアーミー達。
そしてその頭上を舞う黒騎士ヴァイサーガ。
さらにヴァイサーガを覆う一際大きな影がもう一つ現れた。身の丈を超える巨大な大剣を手に現れたスーパーロボットだ。
初めて見るその機体は人型で、紺を基本とした装甲は鋭く重ねられ、大剣を振り回すに相応しい迫力と雄々しさがある。
篭手や脛当て、さらに肩に赤の装甲が重ねられ、重厚感のあるその姿はまるで武者のようである。
騎士をイメージするヴァイサーガとはまるで対極する姿だ。新型の姿にエヴァンジェリンの手に嫌な汗が滲み出てくる。

「マスター、海上の連合艦隊からです。"現在敵の増援・襲撃のため援護できず。敵迎撃の末、本隊と合流されたし。"」
「同時波状攻撃か。舐めたマネを・・・」

本隊からの援護が機体できないとなれば、我々だけでなんとかここを切り抜けなければならない。
負傷兵もいる中で味方を守りながらの戦闘は困難を極める。

「ジノ・・・」
「俺達が殿をやるしかない。突破口を開いて味方を先に逃がす。」
「聞こえたか?・・・おい!」
「・・・絶対に許さねぇ。」
「恵・・・?」

スロットルを握る恵の手の力に力がめいっぱい込められる。
初めて見せる兄の様子に織佳も言葉が出なかった。
エヴァンジェリンは恵の様子からすぐに冷静にさせなければと思い、通信を開こうと回線を開こうとした。
だがそれは次の一瞬で彼女の動きが止まった。恵の乗るグランヴェールに僅かだが今までに感じたことのない力を感じた。





恵の怒りに何かが問いかけてきた。地響きのように低い男の声。だが不思議と敵意や恐怖、不快感はない。
恵はその声に率直に答えた。

(お前は何に怒りを感じる?)

敵、ヴォルベオとその配下達。俺達の世界を壊し、過去の世界も怖そうとするあいつらが憎い。
みんなを苦しめるあいつらの行為が許せない。

(お前の怒りは正しい。今、お前は何を欲する?)

力。どんな敵も倒せる力が欲しい。その力でヴィラノスを倒す。

(力。本当に力だけでいいのか?)

そう。奴を倒す力さえあればいい。俺がヴィラノスを倒す。そしてみんなを見返したい。

(お前の望みを叶え、力を与えよう。だが同時にお前には試練が与えられるだろう。己をさらけ出し、力とは何かと考えるのだ。)

お前は誰なんだ。どうして俺に?

(我が名はグランバ。炎の精霊なり・・・・)

声はそれ以降聞こえることはなかった。機体の揺れと警告音が恵を現実に引き戻す。
今の声は炎の精霊グランバの声だったのか。力を与えると言っていた。
さっきから感じるこの力はグランヴェール自身から生み出されたものだったのだ。
勝てる。このみなぎる力を使えば、きっとヴィラノスに一泡吹かせられる。恵の中に慢心に似た自信が生まれ始めていった。

「ジノ=マクレガー、エヴァンジェリン、そシてガキ共!今日がお前たちの最期ダ!絶対に殺ス!」
「ヴィラノス、分かっているだろうが・・・」
「わかっテいる!黙ってイろ、祢々!」

ヴィラノスは一喝して祢々の言葉を遮った。ヴィラノスもわかっている。これが自分の命運をかけた戦になる。
GDGを囮として使い、配下の半数以上を失い、そして自分の駐屯基地をも失った。もう後はないのだ。

「地獄へ送ってヤル!行け、デスアーミー!」

モノアイを光らせ、デスアーミーが恵達へ地響きを上げて進軍してきた。
ジノは負傷兵をエヴァンジェリンに任せ、大きく跳躍した。
敵軍の正面に立ちふさがり、大きく構えを取る。

「さぁこい、俺が全部相手をしてやる!」
「恵、織佳、ジノが殿をやってる。引くぞ!織佳、いつまで泣いてる!死ぬぞ!」
「はい。・・・お兄ちゃん?早く・・・」
「恵!・・・恵?」

二人は恵とグランヴェールの姿を見て動きを止めた。
二人の目が赤色に染まっていく。それは彼女達自身のせいではない。
目の前の事象によってそれは起こっているのだ。

「なんだ・・・あの力は・・・」

エヴァンジェリンは思わず息を呑み込んだ。
初めて見る事象だった。グランヴェールが赤いオーラに包まれていた。
それはまさに全身を炎に包まれた、炎の化身ともいえる姿だった。

「なんだあれは・・・この異常なエネルギー指数、そして魔力にも似た力、何が起こっているんだ・・・?」
「細かなエネルギー指数で異なるところはありますが、シャイニングガンダムにあったスーパーモードなどの一時的なエネルギーの解放状態と非常に近い状態です。通常のグランヴェールの数倍の出力になっています。」
「お兄ちゃん!」

状況はエヴァンジェリン達だけでなく、敵側も変わりつつあった。
突然の異変にヴィラノスも、祢々もグランヴェールに釘付けになっていた。
ジノは恵の姿を見てすぐに制止を呼びかけた。ジノは確信こそなかったが、あの状態が続くことは恵にとって非常に良くないということだけはわかっていた。
スーパーモードと似ているのなら尚のことだ。あれは感情に身を委ね、体の抑えを無視して戦い続ける。それは体に想像以上の大きな負担を強いることになる。
まだ十代半ばの恵にその力の使い方はあまりにも危険すぎる。

「ナ、なんだアレは!何が起こっテいる!?」
「エヴァ!今すぐに止めさせろ!恵にあの力の使い方は危険すぎる!」
「先にガキから潰セ!ヤレ!」

ジノの隙を突いて、デスアーミーの群れが押し寄せてきた。
モノアイの赤い光が無数に光り、異様な赤い点の壁が覆いかぶさるようだ。

「お兄ちゃん!」
「・・・来るな・・・!あいつらは、俺達がこの手で直接倒すんだッ!」
「ッ!?」

近づこうとした織佳を恵の怒号が制止させた。
違う、明らかにいつもの兄ではない。
そう、全身を纏う憤怒の気が今の彼を変えてしまっていた。
次にエヴァンジェリンが恵の名を呼ぶが、全く反応を示さない。
敵だけを見据え、彼女の言葉に応えなかった。恵は大きく息を吸った。

「その、カロリックスマッシュってやつで焼きつくせ、グランヴェール!!」

グランヴェールの肩の兵装がパイロットの声に呼応して大きく動き出した。
龍をイメージしている装備はその口を大きくあけるように開いた。
両肩の龍から吐き出された二つの炎の塊は、大空を飛ぶ龍のようにうねりをあげてデスアーミーらに突進していく。
敵の目前で一つになり、大きく口を開いた龍の炎は巨体の敵をいとも簡単に飲み込んだ。
地面ごと一瞬に飲み込まれたデスアーミーはドロドロに溶かしつくされ、そびえ立つ岩の瓦礫諸共に灼熱の粘液に変えてしまった。
敵も味方も一瞬にして目の前で起こった事に圧倒された。とんでもない力だと。そしてその怒りの炎の前に恐怖した。
生命も持たず、感情すらない奴らは再びグランヴェールに攻撃しに向かってくる。

「出ろよ、炎の剣!」

プラズマソードが一変。炎の刀身を宿したフレイムカッターへと姿を変えた。
炎の刃が横一直線になぎ払われると、襲いかかってきたデスアーミーをいとも簡単に叩き切り捨てた。
真っ二つにされた敵の胴体の切り口には火が燻り、黒い煙を上げて上半身と下半身を大地に転がした。

「やめるんだ、恵!その力の使い方は間違っている!」
「構うもんか!グランヴェールはこの怒りは正しいと言っていた!」
「グランヴェールが・・・」

恵の発した言葉の意味。これはグランヴェールを通じて、機体を加護する炎の精霊の意思が現れた証だ。
操者として認められた者は、この精霊に認められているということだ。
ジノは精霊と交信をしたことにも驚いたが、炎の精霊が恵の感情に同調したことにも驚いていた。
精霊は基本的に人間とは考え方が根本的に異なっている。
人間にとって悲しいことでも彼らには何事もないことであるが、逆に人間にとって大したことはなくとも精霊の怒りを買うこともある。
恵の怒りに同調した、そしてそれを増長させたことは今までになかったことだ。

「ええい、役立たズどもが・・・!どけイ!」

デスアーミーでは歯が立たないことに、ついに我慢できずヴィラノス自身がグランドガンダム改を動かした。
砲撃モードになったグランドガンダム改は地響きを起こしながら恵の前に突き進んでいる。
この時代の地上に基地を作り活動し始めてからずっとこの子供に邪魔をし続けられてきた。こいつだけは自分の手で捻り潰たいという禍々しさが渦巻いている。
砲塔が恵に向けられ、砲弾が撃ちだされる。
砲弾がグランヴェールの周囲の地表をえぐるように破壊し尽くしていく。凶悪な弾幕がグランヴェールを襲う。

「後ろに気を使えって、んなことわかってるよ!」

独り事のように恵はコクピットの中で話をし続けている。恵の頭の中に直接グランヴェールからの意思が伝わってくるのだ。
後方にいるエヴァンジェリン達に被害が及ばぬよう動くように、というグランヴェールの言葉通りに機体を右へ右へと円を描くように逸れていく。

「逃がさン!」

スタンディングモードからアタックモードに変形したグランドガンダム改は重戦車のように砲撃を行いながらグランヴェールを追い続けた。
敵の視線がそれたことに気がついたエヴァンジェリンはすぐに味方部隊を本体に向けて飛び立たせた。
エヴァンジェリンは祢々の邪魔が入るだろうとイリュージョンアローを構えながら警戒をしていたのだが・・・
上空のヴァイサーガはこちらの動きに気づいていたにも関わらず手を出してくることはなく、じっとヴィラノス達の戦闘を眺めていた。
彼らの目的は敵の殲滅ではない・・・?いつにない祢々の不振な動きに余計警戒心が増していった。

「お兄ちゃん、危ない!」
「恵、伏せろ!」

背中の大砲から発射されたアームパンチがグランヴェールの頭上で爆発した。
デスアーミーの猛攻を掻い潜り、アンジュルグの援護が成功した。
囲まれたアンジュルグに襲いかかる敵はガッデスのグングニールに風穴を開けられていった。
アンジュルグを背に、織佳は周囲の敵を見渡した。あれだけ倒しているのに一向に減る気配はない。
後方ではジノが殿の為に敵の進撃を食い止めている。ここに来ているのはそこから漏れてきた連中だ。
どうみても数十じゃきかない数が押し寄せて囲んでいる。
その中からさらに撤退した味方を追撃するものまで現れた。織佳がエヴァンジェリンを呼ぶ前に、すでに引き金はひかれていた。

「織佳、味方機の援護に行け!」
「で、でも!」
「お前がいても邪魔なだけだ、撤退しろ!」
「は、はい・・・!」

エヴァンジェリンの言葉に萎縮してしまった織佳。そう、自分は足でまといでしかないのだ。
自分がここから居なくなれば先生達は存分に戦える。今自分にできるのは撤退した仲間と逃げること。それが正しいんだ。
・・・そう彼女は自分に言い続けた。残りたい。皆と共に戦いたい。だがどうしてその戦闘力が自分にあるだろうか。
兄のほうを見る。兄はグランヴェールと共にたった一人で戦っている。羨ましかった。そう思うだけで自分はどんどん蔑まれていくような気がした。
唇を噛みしめ、織佳は思い切りスラスターの出力を上げた。デスアーミーを飛び越え、戦場から離脱した。

「行ったか・・・。」
「マスター、きました。」
「よし、蹴散らしてあのバカの援護に行くぞ!」

その言葉とほぼ同時に、目の前のデスアーミーの脳天にエネルギーアローが突き刺さった。
エヴァンジェリンはあえて織佳を突き放した。織佳は地上におり、ガッデスに乗り込んでからずっと守られていた。
そして織佳自身はその状況に気づいているのかいないのか、少しずつ戦意が減り、自分から戦う素振りが少なくなりつつあった。
主兵装が少ないとはいえ、ガッデスもまた魔装機神なのだ。いざというときに戦えなければ意味がない。
エヴァンジェリンなりの荒治療のつもりだった。

「ウガガアッ!!」
「チィッ!」

くすぶる溶岩が流れている大地で、グランヴェールとグランドガンダム改が衝突した。
俊敏性を向上させているグランドガンダム改のアームパンチがグランヴェールの装甲をかすめる。
カウンターでアームパンチを切り落としたとしても、無尽蔵に作られるため効果はない。
一撃、グランヴェールのフレイムカッターが左肩の砲台の一つを叩き切った。
土煙と地鳴りのような音を立てて大砲の先が地面に突き刺さる。

「くそガアアアァッ!」
「ぐあっ!?」

背部のスラスターが爆発するように吹き出し、その巨体から繰り出される突進がグランヴェールに叩きつけられた。
強烈な衝撃が機体とパイロットに襲いかかる。
全身を揺さぶられ、重い衝撃が内蔵を押しつぶそうとしてくるようだった。
地面に衝突する直前に、上手くバク転の要領で手をついて着地する。憤怒にまみれたヴィラノスとグランドガンダムの影が恵とグランヴェールを包み込む。

「潰レろ!」

スタンディングモードに変形したグランドガンダム改のパンチが地面に突き刺さった。
飛び上がったグランヴェール。空中姿勢を保ったまま、肩の放射口が開かれた。

「カロリック、スマァッシュ!」
「グオオオォォッ!!」

灼熱の炎に身を焼かれ、グランドガンダム改の機体が焼けただれた。
しかし、その大きなダメージも再強化されているDG細胞がすぐに修理し始めていた。これでは焼け石に水だ。
吹き上がる黒煙の中から飛び出してきた複数のアームパンチがグランヴェールの躯体を拘束した。
腕や足をつかまれ、体もワイヤーでグルグル巻きにされて身動きが取れない。

「ちょこまカト!」
「しまったっ!?グゥッ!」

引きずられたグランヴェールがグランドガンダム改の足元にまで到達する。
仰向けになった恵の視線の先には巨大な壁が空から覆いかぶさる光景があった。
いや、壁ではない。それはグランドガンダム改を支える巨大な足の裏なのだ。
両腕と足で潰されまいと支えるが150トンを超える巨体と支えられるわけもなく無残にも地面の中に埋もれていく。

「恵!・・・くっ!」

恵の援護に回ろうとするエヴァンジェリンの前に、暗黒の騎士が立ちふさがった。
深紅のマントを翻し、牽制として巨大な両手剣の剣先を突きつける。

「いつまでも貴様のいいようにはさせんぞ、エヴァンジェリン・・・そして茶々丸。」
「そこをどけぇッ!・・・・恵ー!」
「恵、がんばれッ!今そっちにいってやるからな!」

大人たちの呼び声も虚しく響くだけ。グランヴェールはもう見えなくなるくらいに地面にえぐりこまれている。
機体の関節部も限界に達しようとしていた。
恵はグランヴェールの体が苦しむ音を全身で感じながら頭の中で叫び続けていた。
こんな所で死ねるか!こんな所で死ねるか!こんな所で死ねるか!こんな所で死ねるか!!
グランヴェール、もっと力をくれ!誰でもいい、もっと俺に力を!
俺はここで倒れるわけにはいかないんだ・・・・!

「クソッ!こんなところで死ねるかよ!こんな奴らに俺は・・・・・・俺に力をくれ、母さん!!父さん!!」
「無様に潰レろッ!霧島恵ィィィッ!」









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最終章 第五十五話



振動が徐々に大きくなってきた。音も伴って響いてくる。臓器を揺るがすような低周波が体を震撼させる。
時折、崩れるんじゃないかと思えるくらいの爆発がある。正直怖い。別に閉所恐怖症とかではないのだが。
ついに前線の尻尾が見えて光が差した。
出口にたどり着いたのだ。戦闘音がかなり大きい。機体をなるべく低く歩行させ、流れ弾に当たらないように進んでいく。
時折、跳弾した弾が横壁や天井に当たり、甲高い金属音となって恵達を耳から震え上がらせる。
進んだ先に先程と同じくバーザム数機とホバートラックが停車していた。背部の本来は荷台であるところにレドームが装備されている。EWACか何かだろうか。
この装備から察するに、これは部隊用指揮官車両だ。通信を申し出ると、ネオジオン将校の軍服姿をした中年の男が出てきた。
この小隊を指揮しているのが彼なのだろう。

「こちらマスターガンダムパイロットのジノ=マクレガー。状況は?」
「あなたが大佐の言っていたグレミー様からの援軍ですか。見ての通り、袋小路のドームに追い詰めてはいるのですが、なにぶん奥のトンネルから湧き出る数が多くて中々押しきれません。」
「デビルガンダムの姿はありますか?」
「いえ?すべてデスアーミーです。自軍の屍を壁にして籠城していますよ。」

おかしい。そんなわけがない。かなりの深手を負っているはずなのに寝床に帰ってこないとは。
地下でマイトガインがトドメを刺したのか?それなら何かしらの情報がくると思うのだが。
ジノの中の不安はすぐにエヴァンジェリンにも伝わってきた。彼女も同じ考えに至っているようだ。

「ジノ、デスアーミーの発生源とエネルギーの元は確か・・・」
「DGだ。奴らが群を成しているというのなら、奴はまだどこかに潜んでいる。」
「どこかってどこ!?俺達の足元にいるかもしれないの!?」
「落ち着け。すぐに暴れられるほどじゃないとは思うが、早く探さないと取り返しがつかん。」
「お兄ちゃん、とにかくデスアーミーが出てくる奥の道を調べるしかないんじゃかな?って私思うんだけど・・・」
「その奥にまさか?」
「茶々丸、反応はないか?」
「不明です。確かに高エネルギー反応はありますが、DGのものではありません。」
「まずは目の前の敵を叩こう。DG探しはその後だ。」

ジノ達も戦線に加わり、敵の掃討に掛かり始めた。
ザク系、ジム系、ギラ・ドーガ系、アストレイシリーズ、どのMSもそうだが、地下深いドームの中で重火器や高威力の兵器は使えない。
幸い敵もビーム系ではなく実弾を使用している。マシンガンの威力程度なら周りの外壁は耐えられるようだが、両者の争いが長引けばいつ崩落してもおかしくない。
味方軍は量産型のMSが中心で、敵の攻撃にさらされながら突破できる状況ではない。お互いに爆薬物を使用できないためにこう着状態だった。
マスターガンダムらを中心に突破する以外、状況を変える術はなさそうだ。

「小隊長、我々が中央突破を試みます。援護をお願いします!」
「・・・危険だがやむを得ないか。わかりました、全力で援護を!」

ジノは瓦礫や積み上げられたデスアーミーの残骸を壁にして前へ前へと進軍する。
そして、前線で進むのを止めてタイミングを見計らった。すぐ背後にはちゃんとエヴァンジェリン達もついてきている。

「恵、織佳、援護を頼むぞ。」
「あぁ、任せて!」

屋内では威力が強すぎるカロリックミサイルは使えないため、ちゃっかり二人は落ちていた自軍のライフルを拝借していた。
現地調達は戦場の基本だ、と恵は自信満々に言っていた。
小隊長から通信が来た。敵の隙をついて合図と共に一斉援護射撃を行うと。

「全軍、一斉掃射!」

恵は迷うことなく引き金を引いた。機体がライフルの反動で小刻みに揺れる。
突風のように押し寄せる鉛の風がうかつにも突っ立っているデスアーミーの躯体をズタボロに破壊していく。

「でぇぇぇい!!」

飛び上がったマスターガンダムの一撃が最後のデスアーミーをなぎ払った。
着地と同時に最奥へ転がり込んでいく。

「エヴァ、こいつを見てくれ!」

マスターガンダムの隣にアンジュルグが着陸する。
2機の目の前には巨大な柱状のCPUが壁に組み込まれていた。
大きなランプが点滅して暗闇に立つジノ達を照らしている。

「これは・・・」
「マスター、これは四次元システムと同じエネルギーを出しています。無尽蔵にデスアーミーが現れるのはこれの仕業でしょう。」
「未来のとはいえ、元は身内だ。敵に自分達の強みを使われるのがこれほど厄介だとは。」
「茶々丸、こいつを黙らせることはできるか?」
「やってみます、ジノ様。」

茶々丸はアンジュルグのコンピュータから敵の四次元システムに対して侵入を始める。
その間、ジノ達は新たな四次元の扉から敵が出てくるのを警戒する。
案の定、敵は四次元システムの破壊を恐れてか増援を送り込んできた。
自軍のジムのシールド持って、織佳はアンジュルグの前に躍り出る。茶々丸たちは動けない。ここで守らなければ大事になる。

「まだか!」
「もう少しです。」
「こいつ、撃っても撃っても出てくるぜ!」
「しまった!これは・・・」
「どうした、茶々丸?」

エヴァンジェリンの背後で茶々丸の動きが止まった。
彼女の顔がモニターに照らされて赤く染まる。

「大変申し上げにくいことなのですが・・・」
「なんだ、早くしろ!」
「申し訳ありません。どうやらこれはブービートラップのようです。」
「ぶーびー?」

アンジュルグを守っていた織佳は初めて聞く単語に?マークを浮かべた。
恵もマシンガンの銃身を構えながらその意味を聞こうと聞き耳を立てていた。
二人に対して茶々丸は丁寧に説明を加える。

「侵略してくる敵に対し仕掛ける罠の一つです。味方兵の残留物、消耗品などに爆薬やニードルガンなどを仕掛け、それらを手に取った敵を殺傷します。ちなみにブービーとは・・・」
「booby・・・つまりマヌケってことだ、クソッ!茶々丸、何の仕掛けがあった!?」
「ちょうどジノ様がいるところより200m地下にあるものに繋がった模様です。コード名は「サイクロプス」。旧大型兵器のためどういったものかは不明ですが今すぐに脱出することを推奨します。」
「奴ら、最初からこのつもりだったのかよ・・・!」

ジノの顔が強張った。追い詰められた時に敵は何をするかわからない。それは自分達人類も同じだったからだ。
恵も思った。自分達も敵に追い詰められた末にタイムスリップを強行した。
敵は自分達をつぶすためにワザワザ最深部まで誘い込んだ上でトラップを発動させたのだ。
この基地には大量の地球連邦軍とジオンの連合が入り込んでいる。今すぐに脱出命令を出したところで全員が助かるかどうか・・・

「グズグズするな、脱出するぞ!茶々丸、聖達に連絡。基地内部にいる全軍に避難命令を出させろ!ジノ、恵、織佳、アンジュルグを軸に脱出するぞ!」
「ま、間に合うのかな!」
「知らん、だが最後まで諦めるなッ!!茶々丸、トラップの発動までの時間を計算しろ、旧式で大型なら時間はかかるはずだ。」
「すでに計算済みです。予測発動時間は・・・・・・・10分後です。」
「10分か、間に合うか?!」
「考える前に動け!いくぞっ!」

アンジュルグが飛び出し、それにジノ達も続いた。
途中で出会った自軍にはすぐに避難するように伝えて回った。もちろん、ここまで来る途中で出会った兵士たちにも。
ジノ達は転がるように上へ上へと駆け上がる。後ろから部隊も付いてきている。
この調子なら、先にある縦穴に出れるはずだ。助かる!
と思ったのもつかの間、ジノ達は足を止めざるを得なかった。

「これは・・・」

ジノ達は壁に隠れ、言葉を失った。
なぜなら、ジノ達が入ってきた通路には山積みになった味方の機体で塞がれてしまっていたからだ。
周りにはデスアーミーが何体もうろついている。我先に出口へ向かった者たちに奇襲をかけたに違いない。

「クソッ、このクソ忙しい時に!」
「あいつらを倒してからあの機体の山をどかしていたら、間に合わないよ!」
「先生、どうしよう・・・」
「マスター、残り時間はあと3分です。」
「同時にやるか・・・できるのか、我々4人で・・・」

「待ってくれ、アンジュルグのパイロットよ。」

アンジュルグの背後、味方のMS部隊の中から声が上がった。
渋みのあるその声は、さっき一緒になった小隊長だ。
残り数十名の部下を引き連れてジノ達の後を懸命に食らいついてきたのだ。

「もう時間はない。これは私たちがやる。」
「ッ!馬鹿を言うな!満身創痍の貴様たちに何ができるというのだ!」
「我々に質の高い統率力があればこのような事態は起きなかった。責任は我々にもある。大丈夫だ、あんなゾンビ野郎にやられるほど俺たちは伊達じゃない。」
「しかしだな・・・」

言葉の詰まるエヴァンジェリンに、残った兵士たちが奮起していく。
一人、また一人と武器を持ち立ちあがっていく。

「隊長の言うとおりだ!俺たちのことは構うな!」
「あんたらはグレミー様の大事な切り札なんだろ!?こんなところで死ぬなんて馬鹿げてる!」
「もう2分切った!時間がないんだ、やらせてくれ!」
「そうだ、時間がないのだ!・・・いくぞ、皆!奴らに人間の底力を見せつけてやれー!」
「ま、待て!」

エヴァンジェリン達の制止も聞かず、味方が飛び出していく。
奇襲に戸惑うデスアーミーは攻撃が遅れた。銃撃戦が始まり、次々と敵味方が次々に撃墜されていく。
隊長も攻撃に加わってライフルを撃ち続けている。

「行け!早く!」
「魔装機神のパイロット!」
「っ!」
「俺の家族と、仲間の仇をとってくれ!あのデカブツを必ずあの世に送ってくれ!」

恵達のコクピットについさっき出会ったばかりの兵士の声が響いた。
がれきを撤去するMS達の脇をすり抜け、アンジュルグ達は縦通路を上空へ飛び上がった。
それに続き、味方部隊も少しずつあとに続いていく。

「・・・15秒前。」

茶々丸がカウントダウンを始める。
全員がペダルをべた踏みし、最大出力で天に向かって上り詰める。
誰だって死ぬのは怖い。だから早く出たい!助かりたい!
カウントダウンが進むごとに焦りだけがわいてくる。飛べ!もっと早く、もっと早く!

「5秒前、4・・・3・・・」
「見えてきた!もうすぐだ!」

茶々丸がカウントダウンを言い終わってすぐにジノ達は基地を脱出した。
そのまま大きく弧を描くようにして基地から離れていく。
地面を見下ろせば、地震のようなものが起きているように見える。
直後、脱出した通路から大きな閃光が吐き出されていた。そして地表面からドーム状に膨れ上がったエネルギーが周囲の物を巻き込み始めていく。

「あれが・・・古の兵器・・・」

織佳はそのおぞましい光景に自分の体をかき抱いた。
基地の地下で発動したサイクロプス。強力なγ(ガンマ)線の電磁兵器であるそれは、巨大な電子レンジと同じであり、基地内部を蒸しあげ、人間も機械も自然も大地もすべてを破壊しつくした。
満身創痍の部隊を抱えたまま、安全区域まで離脱したジノ達はその地獄の光景に息をのんだ。
結局基地から脱出できたのは、マスターガンダム達4機と連合軍・・・・合わせてたった50数機だった。
数百という大部隊を使っての大侵攻作戦は、GDGの大破と敵基地の破壊いう戦果と比べるには程遠い多くの犠牲を出した。

「畜生、結局なんだったんだよ・・・この戦いは・・・何だったんだよおおおおっ!!」

恵の叫び声だけが戦場に空しく木霊し続けた。












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